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『幸穂、高校を卒業したらお嫁に行きなさい』
『……叔母さん、突然どうしたの』
『早死に家系の下平家に生まれた以上、幸穂も早世する可能性が高いわ。それはわたしもそう。わたしがいつまでも幸穂の面倒をみてあげられるという保証はないの』
『……』
『だったら若くてピチピチの内に健康そうな相手に嫁いで面倒をみてもらった方がいいに決まっているでしょう?』
『それは極論じゃ──』
『黙りなさい! 人生の先輩であるわたしが言っているのよ?! なまじ勉学一筋でロクな恋愛経験もせずにどうせ早死にするのだからと結婚も出産も諦めて来たわたし。だけどそれってすごく惨めだなと思ったの!』
『叔母さん、まだ36でしょう? まだこれからだって───』
『だから余計に後悔しているの! ここまで生きられたのなら早い内に結婚して子どものひとりやふたり生んでいれば子どもたちの成人した姿を見られた筈なのに! それなのに……それなのにぃぃぃぃぃ~~~』
ううっ……と泣き出した叔母さんに何と声を掛けたらいいのか分からない。
『だからね、幸穂にはわたしみたいな惨めな想いはさせたくないわけよ! 結婚するなら早い方がいい! 出産も早い方がいい! だから幸穂、お嫁に行きなさーい!!』
『……』
叔母は昔から才女として誉れ高く、真面目で曲がったことが大嫌いな美しい人だった。
そんな叔母のこの荒唐無稽な決断はそう容易く取り下げられるものではないと姪である私は充分に把握していた。
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