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「なんで……応えてくれないんですか」
「……」
「私、抱いてくださいって言ったんですよ?」
「……」
「それなのにどうして……何もなかったような態度を取るんですかっ」
「……」
言葉を吐き出しながら涙がボロボロと出て来た。
私は精一杯気持ちを伝えたのに……秀司さんに抱いてもらいたいと、秀司さんとの子どもが欲しいと。
私がそういう気持ちになっていることを勇気を振り絞って言葉にしたというのに秀司さんはそれをなかったことにしようとしている。
──私には時間がないのに……
いつ死ぬか分からない早世家系の出自で叔母の謀を私なりに納得して受け入れた。
本当なら夢見ることさえ叶わなかった夢を秀司さんとなら望んでもいいと思えたのに──
「どうして……秀司さん」
「……ごめんね」
秀司さんは私に背中を向けたまま呟いた。
「僕は……さっちゃんを抱くことは出来ない」
「!」
「だから……頼むから今までと同じように過ごさせてくれないかな」
「……」
秀司さんから拒まれた──そんな嘘みたいなその状況は嘘偽りのない真実だった。
『僕はさっちゃんが好きだよ』
『ちゃんと好きだから、だから結婚した』
いつだったかそう言ってくれた──なのに……
(好きなのに……抱く事は出来ないんだ……)
今まで味わったことのない感情が私の体をきつく縛り上げた気がしたのだった。
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