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「お願い……秀司さんには訊かないで」
私は携帯を持つ叔母の手を握った。
「じゃあ理由を訊かせなさい」
「……」
「いきなり帰って来た理由を」
「……」
叔母が問い詰めるのは当然の権利だった。結婚してこの家を出た私が此処に居座るためには家主である叔母に理由を話す必要がある。
(言いたくないのに)
秀司さんとのことを叔母に話すのは本意ではなかった。ある意味恋敵かも知れない叔母に負け犬の遠吠えみたいな理由を話すのは屈辱的とも思えることだった。
だけど叔母の性格を嫌というほどに知り尽くしている私に拒否権などなかったのだった。
「──はぁ? 何、それ」
「……」
私から全ての理由を訊いた叔母は何ともいえないような呆れた顔をした。
「そんなの嘘に決まってんでしょう?! ってか掃除のおばちゃん連中め、要らんこと言うなよ!」
「でも……初めて秀司さんと会った時に叔母さんと話していた雰囲気が……今思えばなんだか意味深だったなって……」
「ごめんね、幸穂」
「え」
叔母さんは私に向かって頭を下げた。
「わたしがもっとちゃんと寺岡くんとのことを話しておけばよかった」
「……叔母さん」
「でもさ、まさか幸穂がこんなにも早く寺岡くんのことで悩むとは思わなかったから」
「それってどういう……」
「わたし、最初に幸穂に言ったよね? 幸穂なら絶対気に入ると思うからって」
「……言っていたね」
「ごめん、あれテキトーな言葉だった」
「え」
「確かに寺岡くんはオススメだったけれど幸穂にとっては単に条件がよければどんなのでもそれなりに受け入れると思ってつい」
「どんなのでもって、叔母さん!」
「ごめん! ──でもさ、結果としてはよかったんでしょう? 寺岡くんと結婚して。よかったからそんなに悩んでいるんだよね」
「~~~」
叔母の言葉から秀司さんとのことが思い出されてまた涙が零れそうになった。
(そうだ……よかったから……秀司さんと結婚してよかったから)
だからこそ叔母と秀司さんの関係を疑ってしまったのだ。
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