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叔母の家を飛び出しタクシーに乗り、マンション前に着き降りてから小走りに部屋まで一気に駆け抜けた。
鍵を開けて真っ暗闇な部屋に灯りを点ける。パッと明るくなったリビングのテーブルに置いてあった【しばらく叔母さんの元に帰ります 幸穂】と書かれたメモを手に取り破ってゴミ箱に捨てた。
「はぁはぁはぁ……間に合ったぁ……」
秀司さんが帰宅していなくてよかったと安堵した。
叔母から全ての事情を訊き、自分勝手に思い悩んでいたことが全て晴れたのを受けて急いで家に戻って来た。
(秀司さん、ごめんなさい!)
私は自分の気持ちばかりを優先していて秀司さんの気持ちを考えなかった。ううん、考えなかったというより訊かなかった。
それ以前に私は今の自分の気持ちを秀司さんに伝えていなかった。故に秀司さんは結婚した当初の私の言葉を信じたままで──……
『恋愛感情がなくてもしていい結婚だったから』
『私、秀司さんに失礼ですよね。こんな気持ちで結婚してしまって』
(そんな気持ちのままでいる私からあんな言葉で誘われれば戸惑ってしまうよね)
後悔しかない。今まで恋愛をしてこなかったツケがここに来て一気に悪い方に出てしまった。
『あんたたちはまだ始まったばかりじゃない。まだ何も手遅れだなんてことにはなっていないよ』
叔母の家を出る時にいわれた言葉を思い出して少し勇気づけられた。
(そうだ……私たちはまだ始まったばかりなんだ)
──結婚はゴールではない
それは私たちに驚くほどに当てはまっている言葉だった。ゴールどころか始まってすらいなかった。
(秀司さん……早く帰って来て)
静寂が満ちている部屋の中でただただそう祈るばかりだった。
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