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「本当は結婚する前にきちんと言うべきだったことかも知れません。私は条件で秀司さんと結婚するのだと」
「……」
「でも私は分からなかったから……人を愛するということが。昔から恋愛に対して一歩引いてしまっている自分がいて、それは自分が置かれている境遇とか運命とか……そういった負のことばかりに気が行って人を愛するということが後手になってしまっているところがあって」
「……」
「こんな私だから一生結婚しないものだと思っていました。でも叔母から秀司さんとの話をもらって諦めていたはずの結婚を周囲に認められるならしてもいいんだって」
「……」
「恋愛感情がなくてもしていい結婚だったから……」
「……さっちゃん」
「私、秀司さんに失礼ですよね。こんな気持ちで結婚してしまって」
「それは──僕も悪い」
「え」
話せば話すほど申し訳ない気持ちが沸々と湧いて来る。神前で誓った言葉は嘘だったという罪悪感が私の心の中を暗くして行く。
そんな中に差し込んだか細い一筋の光。それは彼の言葉だった。
「僕は知っていたよ。さっちゃんが僕を好きじゃないってことを」
「!」
「僕への気持ちがなくても何かのメリットのために結婚するんだって気が付いていた」
「……」
「だけどそれでもいいと……思ってしまったんだ」
「……秀司、さん」
突然の告白に驚きつつ、だけど不謹慎にも秀司さんのその言葉に気持ちがフッと軽くなったのが分った。
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