売人

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 注文方法まで確立されたのは吉田のせいだ。  タイトルが「く」から始まる本を私か彩葉が受付の時に借り出す。そして、返却時に本と一緒に薬ケースを渡すのだ。  最近、彩葉は薬を飲まない。薬ケースにラムネを入れている姿を見たからかもしれない。最近は数が増えたのでケースに入れるのを手伝ってくれる。  そんな時、彩葉の顔は真剣だ。二個なんて、個数を間違えるわけなんてないのに。  数が増えても手間が増えるばかりで儲かるわけでもない。でも、なぜか、悪いことをしているような気になってしまう。  だから、かもしれない。司書の先生に「最近、変に貸出が多い日があるみたいね」と言われた時に挙動不審になってしまった。  そんなに鋭い先生だとは思っていなかったのに生徒指導の先生を連れてきて、持ち物検査をされてしまった。  一つならよかった。その日、私が持っていた薬ケースは七個、彩葉は五個だった。そして、どう見ても、ラムネ菓子は薬に見えた。無実を証明するためにラムネを食べようとすると、全力で止められてしまった。親が呼び出された。母に頼んで、家にあるラムネを持ってきてもらい、それから、先生が一個恐る恐る食べて、やっと、犯罪者扱いから抜け出すことができた。警察を呼ばれずに済んでホッとした。  ラムネを買っていた子達は説教で済んだけど、私と彩葉は謹慎になった。処分が重いような気もするけど、よくわからない。謹慎が終わって、学校に戻ると、図書委員は辞めさせられ、清掃委員と交代させられた。 「でも、何だか楽しかったね」  彩葉がため息をつく。  私も一緒にため息をついた。
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