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不死の薬
「おちよさん、あんまり使ってないですね。体調は良かったんけ?」
「売薬さんのおかげでね。いつもありがとうね」
薬箱の中身を再度確認しつつ、減った分の薬の料金を計算した。
「今回は120文になりますね。それと、おちよさんは寝たきりのことが多くて体がういと思うから、これも置いとくちゃ。枕の中にでも入れて使ってくださいよ」
売薬の男は鞄から蕎麦粉を取り出すと、おちよの枕元に優しく置いた。
「本当に何から何まで済まないね。薬も使った分だけ払えばいいなんて、うちはお金がないから助かるよ」
「なーん、気にせんで。この町の皆に元気でいてほしいから、薬で健康になってくれて僕も嬉しいよ」
家の扉が開くと、おちよの息子である庄助が帰ってきた。
「あっ、紋十郎さん、いらっしゃってたんですか。毎度、母さんに薬を届けてくださってありがとうございます」
「庄助、帰ってきた矢先悪いんだけど、紋十郎さんにお金を取ってくれないかい? 120文だけ」
庄助は120文を取り出して、紋十郎に手渡した。
「紋十郎さん、これで足りてる?」
「ひー、ふー、みー……うん、足りてるよ。ありがとう。それじゃあ、おちよさん、そくさいで。庄助君もまた今度」
紋十郎はおちよの家を後にすると、鞄の中から懸場帳を取り出した。
「ええと……次は……太郎さんのところか……」
太郎の家に向かう途中、紋十郎は城下町の様々な人々から声をかけられた。
激励や挨拶、中には日ごろのお礼だと野菜を紋十郎に渡す人もいた。
太郎の家を訪問した後に、別の家に移動する最中にも多くの人から話しかけられていた。
城下町の人々から愛され、信頼されている売薬さん、それが紋十郎であった。
しかし、そんな中で紋十郎にとっては、予期せぬ相手がいた。
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