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「『不死の薬』と申したか。それはなんだ? 詳しく話せ」
「『不死の薬』とは文字通りのもの……服用すれば死ななくなるという魔法のような薬でございます。こちらがそうです」
紋十郎は鶴と松が彫られた木製の薬入れを懐から取りだし、蓋を開くと、中には一錠の丸薬が入っていた。
「生薬の類ではないな……。こんなものが薬だと申すのか。笑い話にもならんわい。この薬モドキで加賀藩の者たちを毒殺したというのか?」
「それも違います! 私はそんなことしていません! 加賀藩の方々は……この薬を奪い合って殺しあったのです」
「どういうことだ……。私が聞いていた話とは違うではない。おい! 要蔵を呼んで来い!」
藩主が武士の一人に声をかけると、その武士は一人の男を連れてきた。
「この者は要蔵と言い、加賀藩の武士の生き残りである。私は要蔵から加賀藩での出来事を聞き、この藩で売薬を行っておるお前をここに連れてきたのだ。要蔵、加賀藩での話を聞かせてくれぬか?」
「承知しました」
要蔵と呼ばれた男は加賀藩での出来事を語り始めた。
「ある時から加賀藩の武士の間では一つの噂話が流行しました。飲めば死なずの『不死の薬』がこの世の中には存在する……と。戦乱の世の中ですので、そんな夢のようなものがございましたら喉から手が出るほど、欲しいものでございます。そのため、加賀藩の者たちは必死に情報を集め、この紋十郎が『不死の薬』を持っているというところまでたどり着きました。そこで、加賀藩では紋十郎を屋敷に招待して、詳細な話を聞くこととなりました。しかし、これが失敗でした。屋敷に招待された紋十郎は巧みな話術と『不死の薬』だと偽った毒薬を用い、加賀の者たちを毒殺してしまったのです。『不死の薬』など所詮は噂話の一品。この世に存在しておりませぬ。私は毒を盛られましたが、何とか生き延びることができ、今に至ります」
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