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「藩主様、一つよろしいですか?」
要蔵の話が終わると、紋十郎が口を開いた。
「よい、申せ」
「この要蔵というものの話、全くのでたらめでございます。確かに私は加賀藩に呼ばれ、『不死の薬』の話をしました。しかし、毒を盛るなどという行為はしておりません。先ほども申し上げたように、加賀の方々はこの薬を奪い合って殺しあったのです」
紋十郎は薬入れの中の丸薬に視線を落としながら話を続けた。
「『不死の薬』というのはこちらにお見せしているように、たった一つしかございません。死なずの体になれるものは一人ということになります。このことを、加賀の方々にも伝え、誰がこの薬を使うのか翌日までに決めてほしい、と話した晩のことでした。ここからは後日知った話になるのですが、私が眠っている隙に『不死の薬』が盗まれました。盗んだものは吉兵衛という者でした。しかし、吉兵衛は仁兵衛というものに殺され、またしても薬は盗られました。仁兵衛という者は吉兵衛が『不死の薬』を盗むと察知していたようです。ただ、仁兵衛も殺害されました。そんなことが一晩のうちに繰り返され、何十人もがこの薬を奪い合い、殺しあったようなのです。盗まれた薬は私が何とかして回収しました」
「藩主様、信じてはなりません! この者はこうして巧みに言葉を操り、加賀のものを殺害しております! 言葉に耳を傾けてはなりません!」
要蔵が必死に紋十郎の話を否定した。
藩主は座っている椅子のひじ掛けに頬杖をつき、双方の話を聞きながら考えていた。
どちらの話を信じるべきか……と。
加賀での出来事を知る人物は要蔵と紋十郎の二人しかいない。
どちらかが、嘘をついておるな……。
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