不死の薬

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「時に、紋十郎よ。私は未だにその丸いものが薬だとは思っておらぬ。それはお前が作ったのか?」  藩主の問いかけに紋十郎は淡々と答える。 「違います。この薬は神様からいただいたものでございます。老人の姿をして権現された山の神が私にくださいました。売薬のために山を越えようとした時のことでした。私は山の神から『不死の薬を一つ授ける。うまく使え』と言われてこの薬をいただきました」 「一つしかもらっていないということは誰かに使ったわけではないのだろう? なぜそれが『不死の薬』だと断定できる?」 「分かるのです。私が山で出会った老人は間違いなく俗世のものではありませんでした。神様そのものでした。言葉では伝えられませんが、確信があります。この薬は『不死の薬』だと……」  紋十郎が話し終えて一拍ほどの間をおいて、藩主は豪快に笑いだした。 「可笑しいのお。まことに愉快な話であるぞ。こんなものに加賀の者たちは踊らされたというのか! 未使用のものを『不死の薬』だとぬかしおるなど、笑止千万である。紋十郎よ、お前は確か富山藩の出身だと聞いておるが、そんな偽薬を持っておってよいのか? 富山の売薬は信頼の元で成り立っておる。その信頼をお前は失墜させておるのだぞ」  藩主の強い言葉に紋十郎はたじろいだが、それでも確固たる意志でこう言った。 「これは『不死の薬』です!」 「そんなものはない! 『不死の薬』などという戯言を二度と言うな!」  藩主の言動に追い打ちをかけるように要蔵も紋十郎に圧をかける。
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