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プロローグ
穴の開いた障子から漏れる月明かりが薄暗い部屋を照らす光源となっていた。
湿度の高い夏の夜、鈴虫の声が鳴り続けている。
男は口から取り出した布で額から滴る汗を拭いとり、一度姿勢を変えようと足を崩すと、畳の上には男の流した汗によって大きなシミができていた。
態勢を整えると男は再び布を自らの口に持っていき、畳に置いていた短刀を手に持った。
両手で力強く握りしめて腹部に対して垂直に持ち直すと、汗が噴き出すように全身から滲み、呼吸が荒くなる。
この瞬間ばかりは何度繰り返しても慣れることはないな、男はそう思った。
覚悟を決めたようにグッと力強く布を噛み締め、短刀を力強く振り上げると、自らの腹に向かって勢いよく突き刺した。
きっとこれで地獄から解放される……。
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