愚者の毒物

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――良かった。黒ずんでない。 手元の食器を見て、私は安堵の息を吐いた。 銀食器は毒に反応して黒ずむと言われている。私はこの事実を知ってからというもの、毎食毎食、食器の状態を確かめていた。 「どうかしたかい?エヴァ」 穏やかな声音が私を現実に引き戻す。顔を上げるとアドリアンが優しく微笑んでいた。 「いいえ。何でもありません」 彼に心配を掛けたくなくて、私は微笑みながら答える。 「それなら良かった。どんな心配事でも、僕には話して欲しいんだ」 「ありがとう、アドリアン。貴方の側にいれば、私は何も怖くありません」 アドリアンの手が私の手に触れ、その温かさが安心感をもたらしてくれた。 彼の優しい眼差しを感じながら、私は目の前の料理を見つめる。美しく輝く銀食器に盛られた色とりどりの食材を使った前菜。私は心を躍らせながら銀のカトラリーを手に取り、口に運んだ。すると、口の中に広がる美味しさに目を見開いた。調理法や食材の組み合わせが絶妙で、それぞれの味わいが調和している。 「美味しいわ。こんな素晴らしい食事を共に出来るなんて、幸せだと思うわ」 「エヴァ。君のその笑顔が見れるだけで私は幸せだよ」 アドリアンの言葉に、私は照れくさいが笑顔を返した。 その夜、私達は食事と共に愛と幸せを分かち合った。アドリアンとの穏やかな時間は、私にとって宝物のようなものだった。
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