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「銀食器に反応する毒ってヒ素しか無いのだけど、彼女知らなかったのかしらね」
恐らく彼女は全ての銀食器は全ての毒が反応すると思っていたのだろう。
中世ヨーロッパの主流の毒殺がヒ素であった為に、貴族達や富裕層は銀食器で毒の有無を判別しようとした。そうした史実が勘違いさせる要因となっているのは確かだ。
けれど、この地上にはヒ素以外にも山のように毒があるのを知らなかったのだろうか。毒草、毒茸、毒蛇、毒虫、毒性の強い鉱物――数えきれないほどの毒が存在する。そしてまだ知られていない毒だって、きっと存在している。
「お望み通り、銀の食器に毒の料理を盛り付けて差し上げたのだから、彼女もきっと気に入ってくれたわよね」
そして私は椅子から立ち上がり、さきほど用意していたワインのボトルを持って、続きの間に入る。夫婦の寝室だ。エヴァの死後、別邸は処分され、アドリアンは本邸に帰って来た。今夜もまたエヴァの死に打ちひしがれているに違いない。
ちなみに、用意したワインは既に毒見済み。毒殺を恐れるなら、これくらいやらなくちゃね。
さぁ、今度こそ私は間違えない。私の運命の道を共に歩むのは貴方だけよ――アドリアン。
END
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