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「まもなく目標に入る。
メユ、準備は...」
ガチャッ
『...』
「あぁ...」
メユは再び忌まわしい門を潜る。
霧の発生源はここかららしい。
そして鬼の形相がメユを睨む。
『(もうビビらねぇぞ)』
メユは兄がかつて入っていった門の後を追う。
ゆっくりと入っていったその先には____
机が置かれた小さな部屋があった。
その机の上には消えたロウソクと青い書物と赤い書物が置かれていた。
メユはライターの火をロウソクにつける。
『...平咲悪鬼羅刹(上)(下)?』
『なんだこれ』
「...いや、全く分からない。
平咲村にまつわるディアボロスについての資料か?」
『わかんねぇのかよ』
「あい。
1927年の平臘(へいろう)条約にて我々による平咲村姫宮家への干渉、これを禁止しています」
『干渉を禁止...?なぜだ』
「これは我々に知る権限が無いためわかりません。お手伝い出来ず申し訳ないです」
『...いや、大丈夫』
「それで、その本は」
ペラッ
『くずし字だ。
全くわからん』
「それはユーリンチに任せろ。
彼女は日本語に長けている」
「そして古典も理解出来る」
『頭の出来が違うな。もしかして組織に監禁されてたってのは____』
「...あぁ、そういうことだ。
彼女は頭がよすぎるが故に組織に攫われた。奴ら、何億も積めば親から彼女を買えると思っていたんだ」
「だが親は何億積まれようが娘を譲る気など全くなかった。それほど愛情深かったんだ」
「だから奴らは親を_______」
「モラシアーネ、もういいです」
「ユーリンチ、お前...!」
『モラシアーネ...?』
「はい。
彼女はモラシアーネ・ラオディケといいます」
「そして私はエヴァ・ロトリアーノ。
天使の血を継ぐものです」
『...なに?』
「エヴァ...っ!それを言ったらどうなるか分かってるのか!」
「また地下室の箱ン中で実験され続けるんだぞ!分かってるのか!」
「いいえ、私はこの仕事が終わり次第行方をくらします」
「メユさん、あなたは頭の出来が違うと言いました。その通りです、天使なのですから」
「先程の話ですが...私の両親は母国の政府によって殺されました。なにより彼らは私が天使の末裔だと勘づいていましたから」
「その後は動物のように死なない程度に血液を抜き、死なない程度に解剖されました。痛みはなかったですが、人間的な尊厳がチリチリと減っていったのを覚えています」
「その後何年か経ったあと、ディアボロスの討伐協力を条件に常に最前線で戦ってきました。ですがそれにもとうとう疲れてきました」
『...』
「なのでこの仕事が終わり次第私は誰も知らない土地へ逃げます」
『お前は自分で身を守れる歳じゃない。
また攫われるぞ』
「そうなればもう腹は決まってます」
『まさか死ぬとか言うのか?
可哀想だな』
「...はい?」
『お前は自分がどれほど賢いか分かってるようだが、それ以前に社会も知らなければ世界も知らない』
『誰かに頼ろうともしないのがその証拠だ。なぁエヴァ、お前は死にたいのか?』
「いえ、そんなことは_____」
『じゃあ一緒に逃げようぜ』
「...え?」
『どうせ俺はこの仕事が終わったら、殺されるんだろ』
「...っ」
『当たり、か。
どおりで変だと思ったんだよ、政府がひた隠しするこの事件の生き残りがなぜ殺されないのか。
戦い方教えて武器まで寄越すんだ、こんなおかしい話ないだろ』
「...」
『それともうひとつ』
『俺は思ってる以上に、お前らの生きてるこの世界が面白く思えてきた』
『仲間が殺されたのに、イカれてんのかもな』
『俺はエヴァを護衛するから、お前は俺に面白い世界を見せてくれよ』
『俺も他に宛がないし』
「...っ!」
『まぁとりあえず、"あれ"ぶっ殺してからだなぁ』
「...はいっ」
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