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「はい、これがあなたの分のおくすりです」
声で意識が戻される。戻ってから自分がぼうっとしていたことに気付く。
目の前の机に置かれたのは水が入ったコップと薬局でもらうような紙に包まれたいくつかの錠剤。状況が飲み込めずに左右を見回そうとする、が首が動かない。目は動くのでどうにか周囲を把握しようと動かしてみる。机は長い、端が見えないほど。ほかに人は見えない、が多分椅子三つ分くらいの間隔をあけて人がいるような気配がする。それに多分その人の前にも同じように水と薬が置かれている。人が見えない、のはおかしい。だって今自分の目の前に水と薬を置いた人は。見当たらない。正面はただ暗い。例えば机の下は今の自分には見えないけれど、そんなところに隠れる理由なんて思い浮かばない。いやそもそも、自分はその人の声以外を何か観測しただろうか。コップが置かれる音で意識が正面に向いたけれど、それを置く手すら見ていない。
「どうしましたか」
同じ声が労わるような音で聞こえる。
「早く飲まないと、間に合いません」
急かしてくるその声に恐怖を覚える。自分には状況がわからない。この薬はなんだ、いや、そもそも自分は……。
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