本音を聞かせて

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 曇りひとつないガラステーブルの前で、颯太は目の前の小さな塊を食い入るように見ていた。丸くて茶色く、表面はつやッとしている。甘い香りすら漂っている。 (チョコ・・・にしか見えないんだけど)  白いセロファンのような紙に載せられた、それは"薬"。と言って渡されたが、小学5年生の颯太の目には、やはりチョコレートの塊にしか見えない。  渡してきた張本人で、4歳下の小生意気な綾日香曰く、 「心に思っていることをしゃべってしまう薬が入ってる。高級品」 なのだそうだ。軽い感じで言っていたが、嘘偽りなくお金持ちの綾日香の家なら、そういったものも手に入るのかもしれない。  颯太は口を真一文字に結んだ。目をぎゅっとつむって考える。 (こんなの使うのって、なんか、なんか、かっこ悪いよなあ)  だけど。  数日前に、駅前で見かけた佳絵の姿を思い出す。佳絵は中学2年だが、間の抜けたところがあって、性格もふわふわとしていて頼りないから、年上ということを忘れがちだ。でもあの日、直志と並んで立ち話をしていた佳絵は、少し大人っぽい笑い方をしていた。綾日香の許嫁で社会人の直志が相手だったからだろうけど、颯太は動揺した。  直志と佳絵が二人で話している姿は、他でも見てきた。どうしてこの時は動揺したのか。  小学生の颯太にはわからなかった。  それでつい、いつものように学校帰りに綾日香の家でとりとめもなく過ごしているうちに、ぽろっと綾日香に話してしまったのだ。直志が浮気していたとか、そういう話ではなく、佳絵が、いつもと違っていた気がする、という話として。  そうしたら綾日香が、件の薬を持ってきたのだ。 「颯太って、ズケズケものを言うくせに、佳絵お姉ちゃんに肝心なことは言えないのよね。もう少ししたら佳絵お姉ちゃんも来るから、これ食べて飲んで、ズバッとシャキッとサクッと言っちゃいなさい」 「意味わからん」 「わからないんなら、なおさらよ」 「・・・」  いつもならもっと綾日香に絡むところだが、今日は絡み切れない。痛いところを突かれたからかもしれない。  綾日香は自室に引っ込んでしまった。
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