本音を聞かせて

2/3
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
「・・・・あーーーっっ」  颯太は大声を出すと頭を掻きむしった。チョコにしか見えない薬とやらを前に、頭を抱えた。 (言えねーって。佳絵はやっぱり俺より年上で、頼りないけどしっかりしているところもあって、ただのぼんやりなだけじゃないし、俺と綾日香をうまくまとめてくれるところもやっぱあるし、クラスの女子とはやっぱ全然違ってて、なのに、ちょくちょく大ボケかますから目が離せなく、気になって・・・) 「だって、時々大人なんだよ、あいつ・・・」  そんなことを、ふいに突き付けられるのだ。あの日の笑顔のように。 「・・・早く大人になりてえな」 「子どものままの方が、得すること多いよ」 「!」  突然の第三者の声に、颯太はびっくりして顔を上げた。ガラステーブルの向こうに腰かけていたのは、直志。人の好さそうな笑みを浮かべて、どうしたの、とでもいうように軽く首を傾げていた。  颯太は顔がかーっと熱くなるのがわかった。 「い、いつ、いつから、そこ、に」 「来たばかりだよ」  颯太は気恥ずかしさで、パニック状態だった。そんな颯太にお構いなしの直志は、ふと、颯太の前に置いてある小さな塊を見つけた。 「それチョコ?食べていい?仕事帰りで小腹空いてたんだよ」 「え」 「それにこれ、颯太くんにはまだ早いと思うよ」  颯太が身を強張らせた。直志はこのチョコにしか見えないものがなにか、知っているのだ。直志もお金持ちだ。お金持ち界隈では珍しくない代物なのかもしれない。  颯太が何も言わないので、直志は手を伸ばして"薬"を取った。 「いいかな?」  颯太は慌てた。それが何か知っているなら、食べたりしたらどうなるか・・・。本音が駄々洩れになってしまう。そんなこともわからない直志ではないはずだ。いやまさか、本当は何も知らないのか?  颯太は止めた。 「ダメ!」 「え、颯太くん、これ食べるの?」 「あ、いや、そういうわけでは」 「うん、それが正解。ダメだよ、小学生が食べたら酔っぱらっちゃうからね」  そう言って直志は、手に持ったそれをぱくりと口に入れてしまった。  颯太はその様子を見るしかなかった。直志さん、本当のことしか言えなくなっちゃった・・・。  直志は飴玉のように口の中で転がしているようだった。 「おいしいね、これ。君も早く食べられるようになるといいね」 「いや、あの」 「ん?」  直志が眉をひそめた。口の中に入れたものに、何か変化があったのか。颯太は息を飲んだ。 「た、だし、さん?」  直志はにこりと笑った。 「久し振りに食べると、味わいが違うね。しかもこれ、高級だ」 「・・・あ」 「それにしてもこれ、高級なウィスキーボンボンだよね。どうしたの?」  颯太の目が点になった。 「・・・ウィスキー、ボン、ボン?」 「ああ。ウィスキーボンボン。結構アルコールキツメだね、これ。颯太くんが食べたら酔っぱらうよ、きっと」 「薬が入ってるって・・・?」 「薬?まあ、お酒は薬って言われることもあるにはあるけど」 「・・・」  颯太は事態が読めてきたことが分かった。拳をガラステーブルに乗せた。肩が震える。 「え?」  颯太がなにかつぶやいたようなので、直志が訊き返した。だが、それは、直志に向けた言葉ではなかったようだ。  颯太は勢い良く立ち上がると、駆けだした。目指すは綾日香の自室。 「あーすーかーっっっっっ!!騙しやがったなーーーーーぁ!!!」
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!