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「・・・・あーーーっっ」
颯太は大声を出すと頭を掻きむしった。チョコにしか見えない薬とやらを前に、頭を抱えた。
(言えねーって。佳絵はやっぱり俺より年上で、頼りないけどしっかりしているところもあって、ただのぼんやりなだけじゃないし、俺と綾日香をうまくまとめてくれるところもやっぱあるし、クラスの女子とはやっぱ全然違ってて、なのに、ちょくちょく大ボケかますから目が離せなく、気になって・・・)
「だって、時々大人なんだよ、あいつ・・・」
そんなことを、ふいに突き付けられるのだ。あの日の笑顔のように。
「・・・早く大人になりてえな」
「子どものままの方が、得すること多いよ」
「!」
突然の第三者の声に、颯太はびっくりして顔を上げた。ガラステーブルの向こうに腰かけていたのは、直志。人の好さそうな笑みを浮かべて、どうしたの、とでもいうように軽く首を傾げていた。
颯太は顔がかーっと熱くなるのがわかった。
「い、いつ、いつから、そこ、に」
「来たばかりだよ」
颯太は気恥ずかしさで、パニック状態だった。そんな颯太にお構いなしの直志は、ふと、颯太の前に置いてある小さな塊を見つけた。
「それチョコ?食べていい?仕事帰りで小腹空いてたんだよ」
「え」
「それにこれ、颯太くんにはまだ早いと思うよ」
颯太が身を強張らせた。直志はこのチョコにしか見えないものがなにか、知っているのだ。直志もお金持ちだ。お金持ち界隈では珍しくない代物なのかもしれない。
颯太が何も言わないので、直志は手を伸ばして"薬"を取った。
「いいかな?」
颯太は慌てた。それが何か知っているなら、食べたりしたらどうなるか・・・。本音が駄々洩れになってしまう。そんなこともわからない直志ではないはずだ。いやまさか、本当は何も知らないのか?
颯太は止めた。
「ダメ!」
「え、颯太くん、これ食べるの?」
「あ、いや、そういうわけでは」
「うん、それが正解。ダメだよ、小学生が食べたら酔っぱらっちゃうからね」
そう言って直志は、手に持ったそれをぱくりと口に入れてしまった。
颯太はその様子を見るしかなかった。直志さん、本当のことしか言えなくなっちゃった・・・。
直志は飴玉のように口の中で転がしているようだった。
「おいしいね、これ。君も早く食べられるようになるといいね」
「いや、あの」
「ん?」
直志が眉をひそめた。口の中に入れたものに、何か変化があったのか。颯太は息を飲んだ。
「た、だし、さん?」
直志はにこりと笑った。
「久し振りに食べると、味わいが違うね。しかもこれ、高級だ」
「・・・あ」
「それにしてもこれ、高級なウィスキーボンボンだよね。どうしたの?」
颯太の目が点になった。
「・・・ウィスキー、ボン、ボン?」
「ああ。ウィスキーボンボン。結構アルコールキツメだね、これ。颯太くんが食べたら酔っぱらうよ、きっと」
「薬が入ってるって・・・?」
「薬?まあ、お酒は薬って言われることもあるにはあるけど」
「・・・」
颯太は事態が読めてきたことが分かった。拳をガラステーブルに乗せた。肩が震える。
「え?」
颯太がなにかつぶやいたようなので、直志が訊き返した。だが、それは、直志に向けた言葉ではなかったようだ。
颯太は勢い良く立ち上がると、駆けだした。目指すは綾日香の自室。
「あーすーかーっっっっっ!!騙しやがったなーーーーーぁ!!!」
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