奇跡のおくすり

6/11
前へ
/11ページ
次へ
 一時間後、配達の仕事を終えた女性を診るため、ぼくはお店の入口に治療中の札を出した。  今日もあまりお客さんは来ないだろうけど、お店を閉めているワケではないと知ってもらえるよう念のためだ。  お店の奥を案内して、椅子に座ってもらう。あらためて明るい場所で見ると、ヤケドのあとは左の耳の下から首筋まで広がっていて、とても痛々しかった。 「ぼくは東の村から来た丹々と言います。あなたのお名前を聞いてもいいですか?」 「私は寧々。父さんが経営している牧場で働いているの」 「寧々さん。少しだけ、触らせてくださいね」  そう言って傷あとに触れると、寧々さんは大粒の涙をこぼした。 「ごめんなさい! 嫌でしたか」 「ううん。この気持ち悪い傷あとを、間近で見て、触ってくれる人がいることに驚いたの。あなたは私を気味悪がらないのね」 「気味悪くなんてないですよ。しばらく薬を飲み続けてくれれば、きっと良くなります」 「さっきも言っていたけど、お薬を塗るんじゃなくて飲むの?」  寧々さんは不思議そうに首を傾げた。 「そうです。薬で肌の再生能力を高めます。すると、肌が生まれ変わる周期を早くなるんです。だから、薬を飲んだからってすぐに効果はでませんが、少しずつ薄くなっていきます」 「そんなことができるの?」 「できます。ぼくを信じてください。あと、そうですね。睡眠が足りていないようなので、なるべく早く寝るようにしてください」 「……わかった」  真っ直ぐ目を見て話すと、寧々さんは恥ずかしそうに俯いた。 「大丈夫ですよ。寧々さんはとてもきれいな顔立ちをされています。傷あとが薄くなったら、自信を持って相手を見つめることができるようになります」 「うん……、恥ずかしいのはそれだけじゃないんだけどね」 「え?」 「なんでもない。じゃあ、お薬をお願いできる」 「もちろん! 寧々さんの症状に合ったお薬を調合します!」
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加