奇跡のおくすり

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 そうして、寧々さんの治療がはじまった。  経過観察は毎日おこなう必要はなかったけれど、寧々さんは毎日薬屋を訪れ、ミルクと食事を差し入れしてくれた。  寧々さんの紹介で牧場の夫婦、そのお友達、色々な人が薬屋に来てくれるようになった。 「丹々のお薬は本当によく効くねぇ」 足の悪いおばあちゃんは常連さんになり。 「丹々、明日俺は彼女に結婚を申し込むんだ。胃痛を和らげる薬をくれないか」  村で一番元気なお兄さんでさえ、顔を出してくれるようになった。  この村に来て一月が過ぎた。 寧々さんの傷あとは少しずつ薄くなり、目が合う回数が増えた。寧々さんは以前のようにうつむかなくなっていた。 「丹々、私、今日配達中に野菜屋のおばさんに会ったの。その時、なんて言われたと思う?」 「きれいになったね。でしょ?」  少し前までは、注意深く見ていないと気付けないくらいの変化だった。だけど今なら、めったに顔を合わせない人でも、いいや、めったに顔を合わせない人だからこそ寧々さんがきれいになったことに気付けるはずだ。  自信満々に答えたぼくに、寧々さんはやわらかく目を細めた。 「ううん。表情が明るくなったねって言われたの。おばさんったら、以前は私に会うと気まずそうに目を逸らしていたのに、今日はなんにも気にしてないようなようすでね」  おかしそうに話しながら、寧々さんは満面の笑みを浮かべた。 「私、丹々のおかげでしあわせになれたの」  その晩、ぼくは村の人たちみんなの処方箋を書き写し、できるだけ多くの薬を作った。  村の人たちとは仲良くさせてもらっている。ずっとここにいたい気持ちもある。だけど、そろそろ修行の場を次に移す時期が来たんだ。  翌朝、いつものように薬屋を訪れた寧々さんに、旅に出ることを告げた。  寧々さんには行かないでほしいと泣かれてしまったけど、きっとまたこの村に来るからと約束した。  そして、村中を一件一件まわり、処方箋と薬を渡した。  みんな別れを惜しんでくれたけれど、同時にぼくを応援してくれた。 「ぼくの旅の終わりは東村だから、かならずまたここを訪れます。それまで、どうかお元気で」  たくさんの人に手を振って、ぼくはまた旅に出た。
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