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Episode1 いつも心に太陽を。
この日ほどさっぱりと起きれた朝はあっただろうか。
「おじいさん、なんです?この音は」
朝から街には体に振動が伝わるほどの低音が響いていた。
「爆撃音だよ。ペルー、タバコを買ってきておくれ」
おじいさんは杖をつきながら台所に置いてあった財布のところへと行き、お金をペルーにそっと渡した。
「誰にも見せちゃいけないよ」
お金を持っていると誘拐されちゃうからね。までは言わなかった。
「WP!WP!」
街にはWPと叫ぶ人で溢れていた。みんな僕らの国の軍隊の勝利を願っていた。
「おい大統領の演説が始まるらしいぜ」
ペルーの肩に手を下ろし、息を切らしているのは親友のマルクスだった。
タバコのおつかいをしなければいけない。
しかし大統領演説など滅多に見れたもんじゃない。
小さいとも言えないが大きいとも言えない地方都市、プリシャ。
国に無数にある街の中から大統領がわざわざプリシャを選びやってくるというのだから、それは行くだけの価値があると思った。
「わかった!行こう!」
ペルーはタバコのおつかいのことは一旦忘れ、大統領演説に行くことにした。
街の中心部はここ最近で空気ががらりと変わってしまった。
「WP」コールの声、戦争勝利を願う国旗、敵人種へのヘイトクライム。
もはやクライムではなくなってしまったこの街は本当に僕らが信じている祖国なのだろうか。
誰もそんなことを疑わなかった。
街の中心部から離れると、街は静寂で包まれていた。
街を歩く人の足取りはせわしく、赤ん坊でさえも泣くのをためらっていた。
「静かだよな」
ペルーはマルクスに話しかけてみたが、返事は返ってこなかった。
大統領はいつも静かな街の広場を演説会場に選ぶ。
いや、大統領が街を静かにさせているのかもしれない。
この静かな街の人々の心には明かりがなかった。
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