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ともかくも、そうしてアテーノスを訪れたハーソン達は、幸運にも早々、耳寄りな情報に出くわすこととなる。
それはお昼時、腰を据えた宿屋の一階にある大衆酒場で、ほうれん草とチーズの入ったご当地パイ料理〝スパナコピタ〟を食べていた時のこと……。
「──おい、聞いたか? アスキュール先生がまた死人を蘇らせたってえじゃねえか」
「ああ、聞いた聞いた。馬車から落ちて亡くなった、大公テセウッソさまんとこの御曹司だろ? 先生の薬はほんと万能だな。神さまじゃねえが、まさに奇蹟を起こす薬だぜ」
ハーソン達の後の席で、そんな地元民達の交わす会話が図らずも耳に入ってきた。
「死人を蘇らせた?」
その奇妙な話に、ハーソンは俄かに興味を覚える。
「いや、いくらなんでも薬で死人が蘇るなんてことありえんでしょう」
ハーソンの呟きを拾い、アゥグストがそんなツッコミを思わず入れるのだったが。
「いや旦那、嘘じゃねえですぜ? アスキュール先生はマジでスゲエ名医なんですから。ここらじゃ、かの伝説の旅の医師〝パラート・ケーラ・トープス〟と並び称されるくらいで」
「蘇らせたのもこれが初めてじゃねえ。もう何人も蘇えらせてるんですよ。高貴な方々のご親族も救ってるんで、太公さまをはじめとしてお偉方達も太鼓判を押してまさあ」
するとその発言が聞こえたのか? 背後の地元民達がこっちを振り向いて語りかけてくる。
「いや、そうは言われもなあ……死人が蘇るなど、やはり俄かには信じられんな」
「うむ。もしそれが事実だとすれば、まさにそれは奇蹟。神の御業だ……メデイア、どう思う」
だが、死人が生き返るなど、どう考えても眉唾ものの話だ。アゥグストは眉を顰めて疑りの眼差しを向け、ハーソンも考え込むとメデイアに話を振る。
「魔法薬でしょうか? 聞いたことありませんし、さすがに無理だとは思いますが、魔導書の魔術を用いれば、あるいは悪魔の力でできなくはないのかも……もしくは蘇生に見せかけて死体を操る死霊魔術という可能性も……」
その問いに、今は尼僧だがもと魔女という経歴を持つ、魔術担当官のメデイアは思いつく限りの仮説を考察する。
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