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魔導書──それは、この世の森羅万象に宿る悪魔(※精霊)を召喚し、それらを使役することで様々な事象を自らの想い通りに操るための魔術の書である。
このエウロパ世界において、神聖イスカンドリア帝国を始めとするプロフェシア教圏の国々では、基本、「悪魔に頼る邪悪な書物」としてその所持・使用を硬く禁じていたが、それは教会と各国王権が魔導書の力を独占するための方便であり、逆に許可を得た者であれば、その魔術を憚ることもなく、大手を振って公然と行使できていた。
メデイアも羊角騎士団の担当官として、その使用を公式に認められた数少ない人間の一人である。
「いいえ、アスキュール先生はそんな魔術師じゃなく純粋なお医者ですぜ?」
「ええ。魔法修士だったって話も聞かねえですし、無許可で魔導書使うような無法者でもねえ」
だが、そんなメデイアの推測を地元民達は一蹴する。
〝魔法修士〟とは、まさにこの矛盾した禁書政策を象徴するかのような、神に仕えて暮らすべきはずの修道士の中でも、魔導書を専門に研究して用いる者達のことである。
「死人をも蘇らせる名医か……そういえば、これから長い船旅をするというのに、まだ専属の船医を用意していなかったな」
思わず聞くこととなった名医の噂に、ハーソンは俄然、興味を抱き始める。
じつはハーソン達〝白金の羊角騎士団〟、本来は異教・異端からプロフェシア教を護るために組織された修道騎士団なのであるが、エルドラニアは遥か海の向こうに〝新天地(新大陸)〟を発見し、その広大な土地を植民地化することで繁栄を遂げていたため、国王カルロマグノはその近海を荒らす海賊討伐に彼らの力を用いようとしているのだ。
「確かに有能な船医は欲しいところですな。長期の船上生活では栄養不足から病になると聞きます。薬に詳しいのであれば、食事の管理を任すのも得策でしょう」
「ええ。仮にもぐりの魔術師だったとしても、死者を蘇生させるほどの魔法薬。それを作れる者となれば腕に間違いはないかと」
ハーソンばかりでなく、アゥグストとメデイアの二人にしても、それぞれの観点からその考えには賛同の意を示している。
「よし。ともかくも会いに行ってみるか……すまぬが、そのアスキュール先生とやらの居場所を教えてはもらえぬか? その代わりと言ってはなんだが、礼に一杯奢ろう」
全員の意見の一致を見るとハーソンは地元民達の方へ視線を向け、情報代がわりのタダ酒を餌に、彼らにそう言って尋ねた──。
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