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「──ふぅ……やっとだわい。けっきょく最後になってしまったの」
それから二時間ばかり並ばされた後、ようやく番が回ってきたと思いきや、患者が先だと別室で待たされ、アスキュールに会えたのは診療が終わった後のことだった。
窓から覗く空と雲はすでに夕日に赤く染まっている。
「待たせたの。わしがアスキュール・ド・ペレスじゃ。かの誉高き白金の羊角騎士団の騎士殿が、一介の町医者にいったいなんのようかいの?」
燭台の明かりが灯された夕暮れ時の薄暗い部屋で、ハーソン達の前に現れたのはかくしゃくとした一人の老人だった。
顎と口に立派な白髭を蓄え、薄汚れた白いローブを纏うと、長い白髪の頭には白いベレ(※ベレー帽)をかぶっている。
聞いたところ人徳ある医師のようなので、好々爺みたいな人物像を想像していたのであるが、その顔は妙に厳しく、眼も鷹のように鋭い輝きを帯びている。
「私は羊角騎士団・団長のハーソン・デ・テッサリオ、こっちは副団長のアゥグストと魔術担当官のメデイアです。ま、これは本題ではなく純粋な興味からなのだが……まずは単刀直入にお訊きしたい。貴殿が死者を蘇らせたというの真のお話か?」
そんな威圧感さえ感じさせる老医師に対し、出会い頭から早々に、一番確かめたかったそのことをハーソンは尋ねる。
「フン。わしが死者を蘇らせたかだと? ……ワハハハハ…神でもあるまいに、そんなことできるわけがない。そんなのただのウワサじゃよ、ウワサ。ガハハハハ…!」
すると老医師は突然、おかしそうに高笑いを響かせ、思いの外にきっぱりとその話を否定する。
「しかし、街の者達はすっかりそう信じ切っておりますぞ? そこもとの薬でもう何人もの死者が蘇ったのだと」
「それはまったくの誤解じゃよ。おそらくは瀕死の重症者がわしの気付け薬で意識を取り戻したのを見て、医術の知識のない者がきっと勘違いしたんじゃろう。あるいは一時的な仮死状態とする薬を用いて手術を施すこともあるゆえ、その患者の回復する姿が影響しているのかもしれぬの」
あまりにはっきりと否定してくれるので、面食らったアゥグストが重ねて問い質すと、老医師はその原因も推測して教えてくれる。
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