Ⅱ 妙薬の秘密

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「仮死状態に? その薬というのは魔導書の力を用いた魔法薬なのですか?」 「いや、違う違う。ただの蛇の毒から作り出した薬じゃ。医者として自然魔術(※科学)は師匠から学んだが、悪魔召喚の魔術などとんと知らんからの……もっとも、魔女と呼ばれる者達に教えを乞うたことはあるが、それは彼女らの持つ抱負な薬草に関する知識についてじゃ。その知識も参考にして、その蛇毒を用いる薬を思いついた」  次にメデイアが自身の職掌から気になることを訊いてみるが、それにも老医師は包み隠すことなく教えてくれる。 「なるほど。それでそのようなよく効く薬を……」  老医師の説明を聞いたメデイアは、あたかも蘇生と見紛うほどのその薬について妙に納得するところがある……彼女ももとは魔女であり、魔女の持つ独自の薬学の奥深さは充分に理解しているのだ。 「というわけで、たとえ国王や皇帝陛下の頼みとあっても死人を蘇らせることなどわしにはできんぞ? それとも、死者の蘇生を騙る異端とでも思って、わしをわざわざ取り調べに来たのかの?」  ハーソン達からの質問にすべて答え終わった老医師は、今度は自分の方から勘繰った問いかけを三人の騎士にぶつける……国王直属である護教騎士団の訪問に、そうした理由を推測したのである。  ちなみにエルドラニア国王カルロマグノは現在、神聖イスカンドリア皇帝も兼ねているため、〝皇帝陛下〟というのは国王と同じ彼らの主君を示している。 「ああ、いえ、それこそ誤解というもの。先程も申した通り、蘇生について尋ねたのはついでというか、単に知的興味があっただけのこと。それに今の羊角騎士団はそれほど異端討伐に熱心ではありません……じつは、我らが軍船の船医を貴殿にお任せいたしたく、その説得に我らは参りました」  だが、邪推する老医師に対し、それもまた勘違いであることをハーソンは指摘すると、ようやくに今日来た本題をアスキュールに伝えた。 「わしに船医を? なぜ、羊角騎士団が船医を……まったく話が見えてこないのだが……」 「いや、我らにも少々複雑な理由があるのです──」  すると怪訝な顔をして、むしろ首を傾げてしまう老医師に、ハーソンは苦笑いを浮かべてすべてを説明した。
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