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 ――場違いだ。  酒を飲み始めて10分もしないうちにそう思った。  安藤は魔法使いのローブを着たあと、カウンターでミイラ男の仮装をしたバーテンダーに怯えながら、とりあえずモスコミュールを注文し、バー全体が見渡せる奥の席へと座った。  店内は既にほどよく混み合っており、吸血鬼やフランケンシュタイン、またはハロウィンは全く関係ないアニメのコスプレなど、さまざまな仮装をした男たちでいっぱいだった。  店内もハロウィンらしく、蝙蝠の羽の形のモビールや、プラスチックで出来たジャック・オー・ランタンの置物で隙間なく飾り付けられており、彼らの格好と妙にマッチングしている。  店内に流れている軽快で陽気な音楽は、すべて洋楽のようだ。  安藤はモスコミュールをちびちびと飲みながら、まるで違う世界の住人を見るような気持ちで彼らを観察していた。しかし、すぐに見ている場合ではないと気付く。  今日、安藤はここへ男を漁りに来たのだ。  自分を抱いてくれる男を探しに。  目的を思い出し、誰か話しかけやすそうな人はいないか――と店内を見渡したところ、一人淋しく飲んでいるのは自分だけだということに気付いた。 (あれっ……?)  安藤を除く全員が顔見知りなのか、誰も彼もが気軽に席を移動しながら挨拶をしあい、楽しそうに酒を呑み交わしている。が、安藤に話しかけてくる人間は誰もいない。  そして冒頭だ。安藤はバーの片隅でひとり途方に暮れていた。 (はあ……誰でもいいから、話しかけてきてくれないかな……)  対女性において、受け身だったことはあまりない。しかしこの場には女性など一人もいないし、そもそも女性と仲良くなるために来ているのではないのだ。  安藤は、ここへ来たことを後悔した。  何故事前に知り合いのひとりも作らず、いきなりパーティーというハイレベルな社交の場へ来てしまったのだろう。  何も考えていなかった。ただ、来たら誰かに自然に声をかけられて、誘われてまあまあイケそうだったらそのまま付いていこうかな、くらいにしか思っていなかった。  冷静に考えて、誘われるわけがないのに。  こんな片隅でひとりぼっちで飲んでいる、安物っぽいローブを羽織っただけの中途半端なコスプレをした三十路男が、なんの理由もなくモテるわけがないのだ。  自覚した途端、死にたくなった。 (……これを飲んだら、もう帰ろう)  男に抱かれてみたいという願望も、もしかするとただのまやかしだったのかもしれない。  ただの思い込みだ。興味だけで気軽に踏み込んでいい世界ではなかったのだ――。  そう思っていたら。 「ねえ、お兄さん一人で来てるの?」  へらへらしたひどく顔色の悪い男に、いきなり声をかけられた。
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