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 安藤はその男を見て、少し引いてしまった。  ぼっちの自分に声をかけてくれたのは有難いのだが、なんとなく嫌な感じがしたのだ。  店内の薄暗い照明のせいか分からないが、男の肌は病的に青白くて、髭を剃ったあとだけが濃くて目立つ。  髪は茶色に染めてあるがまだらになっていて、櫛を入れていないのが分かるほどぼさぼさだ。  目だけが妙にギラついていて不気味だった。  この顔色の悪さはもしかすると仮装の一種なんだろうかと一瞬思ったが、安藤には判断が付かなかった。  とりあえず無視をするわけにはいかないので、曖昧に笑いかけて返事をした。 「まあ、はい」 「さっきからつまんなそうだよね、見ない顔だし、もしかしてここ来るの初めて?」 「そうですけど」 「ふうーん」  頭のてっぺんから足の先までジロジロと無遠慮に見られ、なんだか値踏みされているような気分になった。  こんな男に話しかけられるくらいなら一人の方がまだマシだ、とさえ思えた。 「で、どっちなの?」 「は?」 「だーかーら、どっちなのかって聞いてるんだよ」 「えっと……」 (あれか。タチか、ネコかというやつか) 「ネコ、です」  男同士で寝る場合、男役をタチ、女役をネコという隠語で呼ぶらしい。  安藤にはまだ経験はないが、一応希望として答えておいた。 「そうなんだ、ラッキー。じゃあさ、場所を変えよう」 「え?」 「一人でこんなとこに来るってことは、今晩寝る相手を探してるんだろ?俺もだからさ。よし、行こう」 「いやっその……!」  安藤は強引に立ち上がらされ、強く手首を掴まれる。  確かにその通りなのだが、こんな得体の知れない男に抱かれたくない。  安藤はもっと安心して身を委ねることができるような、強く抱きしめてもらえるような、そんな包容力のある男と―― 「ちょっと。その人俺のツレなんだけど?」 (……え?)  顔色の悪い男と腰が引けている安藤に向けて、ここちよいアルトの声が響いた。  その声の主を確かめようと思ったが、顔を見る前に安藤はグイと強く腕を引っ張られ、次の瞬間には見知らぬ誰かに抱きしめられていた。  目の前にあるのは、ぱりっとした白いシャツ。  シャツの上からでも分かる、立派な胸筋。  それと、お菓子のような甘い匂いがふわっと鼻腔を擽った。 「……ひとりって言ってたけど?」 「だから、俺と待ち合わせしてたんだよ。それまで一人だったってことだろ」 「チェッ、なあーんだ……」  顔色の悪い男が離れていった。どうやら安藤は助けられたらしい。 「大丈夫?魔法使いのおにいさん」  慌てて礼を言おうと、助けてくれた青年を見上げた。 「あ、ありが……ヒエッ!?」  お礼を言い終える前に、安藤の口からは悲鳴が漏れた。  その青年は洒落た燕尾服を着ているが、顔全体を白く塗っており、そのうえ骸骨のようなペイントを施していたからだ。
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