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 青年との会話は、ひどく楽しかった。  もう一杯飲んだら帰るはずだったのに、カクテルはすぐに底をついてしまい、安藤はつい三杯目を頼んでいた。  いきなり本名を名乗ったせいか、青年は自分の年齢や職業を隠しもせずに――本当なのかは分からないが、24歳で建設関係の仕事をしている――と教えてくれた。  どうりで、平均的な成人男性の体格の安藤よりも全体的にガッシリしている。  安藤は、青年はせっかく気合いの入った仮装をしているのに、知り合いに声を掛けに行ったり写真を撮らなくていいのだろうかとソワソワしていたが、そのうち気にならなくなった。行くときは彼のタイミングで行くのだろう。  白塗りのメイクも見るたびに心臓に悪かったが、直視しなければどうってことはない。 「ところでさ」 「うん?」 「優介さんってノンケでしょ。どうしてゲイバーに来たの?」 「え……」  聞かれたくないことをはっきりと聞かれて、安藤は一気に酔いが醒める想いがした。 「えっと、その……」 「別に責めてるわけじゃないよ。でもさ、やっぱり気になるじゃん?男を試したくなったの?ちなみに周りの奴らも最初から優介さんがノンケだって気付いていると思うよ」 「そうなのか?」  別に野次馬や社会見学で来たわけじゃないにしても、彼らにとっては楽しいパーティーの中に異物が混じったような感覚だったのだろうか。なんだか申し訳ない気持ちになった。 「どうしてって聞かれると……俺にもよく分からないんだけど」 「んん?」 「毎日朝早くに仕事行って、残業して帰って寝るだけの生活で……上司は()な奴で俺にばかり面倒な仕事を押しつけるし、同僚はミスばかりするし、忙しくて会えなかったからって彼女には浮気されるし……」 「わーお」  しかも彼女の浮気相手は、ミスを連発し全ての尻拭いを安藤にさせてくる、大嫌いな同僚だった。  二人の関係を知ったとき、安藤は怒りを通り越して無の感情になった。  勿論、彼女とはすぐに別れた。 「なんか……色々疲れたのかな。自暴自棄になったっていうか……」 「それで、男に抱かれに来たの?」 「なんか語弊がある気がするけど……まあ、そういうことになるのかなぁ……」  どうして初対面で年下の青年に、みっともない愚痴をすらすらと吐いてしまうのだろう。  むしろ初対面だから言えるのかもしれないが、彼が聞き上手なのもあった。  以前友人に愚痴ったとき『でもそれはお前がさ、』と聞いてもいない解決策を我が物顔で話しだして、もう二度とこいつには――こいつ以外にも――愚痴は吐くまい、と思ったのに。  しかし横に座っている青年は、そういう余計なアドバイスは一切言わず、安藤の愚痴を静かに聞いてくれている。  それがひどく有難くて、安藤は今日ここに来たことを後悔せずに済んだ、と思った。 「……辛かったね」  そのうえそんな優しい言葉を掛けられて、なんだか泣きそうになった。
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