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「俺は魔法使いじゃないけど、優介さんの望みは叶えてあげられるよ」 「――え?」 (俺の、望み?) 「魔法をかけてあげる」  安藤は、思わず青年の目を見た。  白塗りの向こうに見えた彼の素顔は意外に端正で、同性なのにドキンと胸が高鳴った。  青年は、爪の整えてある骨ばった長いひとさしゆびでスッとカウンターの方を指した。 「あそこにお菓子が置いてあるでしょ?」 「……ああ」 「あれをどうするのか、優介さんが決めて」 「……?」  どういうことだろう。  青年の意図がいまいち分からない――と思った矢先、次のセリフでその意味を理解した。 「Trick or treat?」  やけに発音のいい英語で、青年は言った。 「あ……えっと……」 "優介さんが決めて"  ドクドクと自分の心臓の鼓動が聞こえる。  その願望は、忘れようとしたのに。  でも彼なら、彼になら──…… 「……いたずらの方で……」 「ふふ、いいよ。出ようか」 「あ……」  安藤は多少酔ってふわふわした頭で、青年が誘導するがままに大人しく着いて行き、気付けばラブホテルの一室にいた。  男同士でセックスをする際には準備が必要だ、ということは予め知っていたが、青年は丁寧にやり方を説明してくれた。  手伝おうともしてくれたけれど、さすがにそれは遠慮して、安藤はひとり浴室に篭った。  浴室の壁に額を付け、覚束無い手付きで直腸の洗浄をしながら、安藤は悩んだ。  このまま彼を信用して、身を預けてしまってもいいのだろうか。  最初からそのつもりでパーティーに来たのだし、今は願ってもいない状況なのだけど。  ――もう、後戻りは出来ない。  安藤は覚悟を決め、下着はつけずにバスローブだけを着て浴室を出たら、青年は目を丸くして言った。 「優介さん、なんて顔してるの?リラックスしてよ。俺は変なクスリも使わないし、病気も持ってないから安心して?」 「いや、それは……」  そんな心配はしていなかったのだが、安藤がそれらの点で不安になっていると思わせたらしい。 「じゃあ俺もシャワー浴びてくるね。……あ、もし気が変わったのなら、俺がいない間に帰ってもいいよ」 「え……?」  白塗りに目の周囲は黒く塗り潰してあり、口が耳まで裂けてあるのを縫いつけたような恐ろしいメイクをしているのに、青年が自分に向けるまろやかな微笑みに安藤は胸が苦しくなった。  この感情は、ときめきだ。  ――他人にこんなに優しくされたのは、いったいいつ以来だろう? (……彼になら、抱かれてもいい。むしろ、抱かれたい)  安藤は、帰らなかった。
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