【2】学校が嫌い?

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 2人の話を聞いて、比奈森さんのお休みや早退が多い理由がわかったのと同時に、ずっと抱いていた別の疑問も解消された。比奈森さんがいつも教室の隅でひとりでいたことについてだ。  わたしがこれまで比奈森さんと話す機会がなかったのは、彼女が休みがちだったり席が離れていたのもあるけど、一番の理由は彼女が〝自分の意思でひとりでいる子〟だったからだ。  みんなの輪に入っていけないだとか、それこそ友達と喧嘩してしまって気まずいだとかじゃなく、意図して周りの子たちの会話に参加していないことは、いつでも健康的なプラントが教えてくれていた。  クラスの中心にいるのが似合いそうな彼女が、ひとりでいるのが好きなのは意外だったけれど、それはわたしの勝手なイメージでしかないし、1年生から同じクラスの2人が言うんだから、元からそういう子なんだろう。ひとりでいても凛としている比奈森さんは、やっぱりうらやましいと思った。  その日の放課後、ミズキちゃんの部屋で宿題をやっている時にも、自然と比奈森さんの話になった。5年生になってからは週の半分ほどしか登校していないけど、つい数ヶ月前までは他の子たちと同じように毎朝教室に来ていたらしい。  お仕事が忙しくなったのは、去年の12月。所属雑誌のSNSに上がったモデルさんたちを紹介する動画がきっかけだったそうで、〝可愛すぎる小学生〟とか〝世紀の美少女モデル〟と話題になってネットで拡散されて以降、人気に火がついたそうだ。  それまでは、週末に行われる任意参加の行事を欠席することはあっても、係や掃除の当番も休んだことはなかったらしい。〝授業が終わってからモデルのお仕事をしているんだ〟と、本人から聞いたというハナちゃんが、少し口調を真似ながら話してくれた。  夜、家に帰ってからママのスマホで雑誌のSNSを見てみると、比奈森さんも他のモデルの人たちも、みんなキラキラして鮮やかなプラントを生やしていて、なんだか嬉しくなった。比奈森さんのプラントにもう蕾がついているのは、お仕事が楽しいとか充実しているからなのかもしれない。  お仕事をしている分、わたしたちよりも大人だから芽も成長しているんだと考えたら、納得もいったし、あの青い蕾がどんな花を咲かせるのか、ますます楽しみになった。  その蕾に変化が表れ始めたのは、5月の終わり頃だった。  初めに気が付いたのは、ある日の朝、比奈森さんが教室に入ってきた時で、その時は、プラントの葉っぱがちょっとしょんぼりしている程度だった。そのくらいの変化はよくあることで、ママも残業して帰ってきた時は大抵そうなっているし、わたしも夜更かしして本を読んだ次の日の朝は、洗面所の鏡でしんなりした双葉を見て妙な罪悪感に駆られる。  朝の会で、先生が来月に実施される体力テストの案内と、最近この近くで噂になってる不審者に関するプリントを配った時も、比奈森さんは前の席の子からプリントを受け取った後、全然読んでいる様子がなかった。表情はいつも通りにこやかだったし、週末はお仕事の予定が入ってると聞いていたのもあって、少し疲れてるのかなと、最初のうちはあまり気にしていなかった。  でも、それから比奈森さんのプラントは、学校に来る度にちょっとずつ元気をなくしていった。比奈森さん自身は相変わらず明るくて楽しげに振る舞っていたけど、頭の上の感情は日に日に弱っていった。特に気にかかったのは、午後からの授業に備えて体育館へ向かう最中、玄関でたまたま見かけた姿だ。下駄箱の扉を開いたまま伏し目がちに表情を曇らせる横顔は、初めて見る元気のない彼女自身だった。  SNSもこれまで通りに更新されているみたいだし、雑誌やネットの中の比奈森さんは以前と変わっていない様子だった。雑誌は今月号も比奈森さんが表紙を飾っているし、ネットで炎上しているといったこともなさそうだ。写真の中のプラントが、学校にいる時よりシャキッとしているのを見ても、元気がない原因がお仕事じゃないことは一目瞭然だった。
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