【1】芽が生えた!

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 そんな願いも虚しく、頭の植物は次の日も、その次の日になっても、みんなに生えていた。  週が明ける頃には、わたしも少し見慣れてきて、意外と図太いなぁと思ったりする。  頭から芽や草や花が生えてるなんてヘンテコ以外の何物でもないけど、怖い顔の体育の先生や、すぐ吠える近所の犬に可愛いお花や葉っぱが生えてると、怖さがちょこっと減るから悪いことばかりじゃないし、それに、見慣れてきたら植物のちょっとした違いもわかるようになって、なんだか楽しいのだ。  たとえば、先生に怒られた後の松田くんの芽はシュンと萎れて元気がなかったし、ドッジボールで活躍してる時の林さんの芽は、栄養をいっぱいもらったみたいにピンと伸びていて、葉っぱも青々としている。宿題を忘れて漫画を読んでいたわたしを怒るママの頭の上では、葉っぱがトゲみたいにツンツン尖って逆立っていて、とうとう鬼の角が生えたのかと思ったくらいだ。  そうして頭の植物が見えるのが日常になりつつあった、4月最後の木曜日。珍しい色をした芽を教室で見つけた。同じクラスの遠藤さんの芽だ。  前の日まで緑色だった3枚の葉っぱが、今日は登校してきた時から全部黄色っぽく変色していて、端っこが枯れたみたいにカサカサしている。叱られてしょんぼりしているのとも、疲れてぐったりしているのとも違う、もっと気力をなくしているような葉っぱが気になって、斜め前の席を朝からちらちら伺っていたら、遠藤さんもまた、後ろの方の席を何度も振り向いているのに気が付いた。  遠藤さんの視線の先には、梅本さんが座っていた。たしか2人は去年もその前も同じクラスだったはずだ。毎朝一緒に登校してくるし、帰りも待ち合わせしているのをよく見るけど、そういえば今日は別々に来ていた。2人とも普段より遅かったし、梅本さんに至っては予鈴ギリギリに駆け込んできていた。  その梅本さんも、いつも通り周りの席の子たちと談笑しているものの、頭の芽は心なしか元気がない。萎れているというほどではないけれど、活発で明るい梅本さんを表したようなハリやツヤは、今日はなかった。  朝、玄関で見かけた時は、てっきり走って疲れたせいだと思っていたけど、もしかして遠藤さんの芽が変色したのと関係あるのかな。気になるけど、でも、そんなの聞けるわけない。ほとんど話したこともないのに急に声をかけたら、困らせたり嫌な思いをさせるかもしれないし、きっと無関係のわたしが首を突っ込んではいけないことだ。
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