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悶々としたまま3時間目が終わり、次の理科のための移動で教室が騒がしくなる。もたもたと持ち物を纏めているうちに、クラスの人口密度は半分ほどになっていた。
やっと準備ができて顔を上げると、遠藤さんがじっとドアの方を見ていた。そのドアからは梅本さんと他の子たちが今まさに出ていくところで、遠藤さんは何か言いたげだったけれど、梅本さんは気付いていない様子で、そのまま出ていってしまった。
遠藤さんが悲しそうに俯いた瞬間、その頭の上で、黄色い芽が瞬く間にカサカサの枯れ葉のようになって、思わず、
「あっ!」
と声を上げてしまった。「えっ?」と遠藤さんが慌てた風に振り向くと、乾いて薄っぺらくなった葉っぱが遠心力で振り回されて、くったりと葉っぱの先を下に向ける。それが可哀想に思えてまた声が出そうになったけど、頭の芽を心配している場合じゃない。
遠藤さんがびっくりと気まずさを足して割ったような顔でこっちを見ている。気付けば教室にはわたしたちだけで、他の子に話しかけただとか誤魔化すこともできない。
どうしよう。どうしよう。頭の中を困惑と記憶が飛び交って、教科書を持つ手に力が入る。
出しゃばって嫌がられたら?関係ないって怒られたら?でも、このまま黙ってる方が気まずいしーーー。
ゆっくりと長く息を吐いて顔を上げたら、枯れた芽を乗せた頭が不思議そうに傾いた。
「あ、あの…もしかしてなんだけど…その…、梅本さんと何か…あった…?ちっ、違ったらごめんね!なんか、あの、元気なさそうだから気になって、その…!」
言ってる途中で怖くなって、急いで言葉を付け足すと、はじめは丸くなっていた遠藤さんの目が胸元に抱いた教科書やペンケースに向いて、瞼を伏せたまま静かに頷いた。
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