【2】学校が嫌い?

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【2】学校が嫌い?

 頭のてっぺんに生えている謎の植物。それが見えるのが自分の長所なんだと思えるようになったら、いろんなことが変わっていった。  おでこから上を見ないように俯くのもやめたし、植物を見れば相手の機嫌がわかるから、むやみに怖がってびくびくすることも減って、話しかけていいタイミングも掴めるようになってきた。葵先生のヒマワリが元気に上を向いている時は、抜き打ちテストを出そうとしてるってこともわかったし、教室でひとりぼっちでいる子たちの中で、好きでひとりでいる子とそうじゃない子の見分けもついた。  あまり話したこともない子に声をかけるのは勇気が必要だったけど、萎れていた芽がピンと立ち上がって、その下の顔も明るくなると嬉しくなった。きっと、以前のわたしも教室の隅っこで芽をしょんぼりさせていたんだろう。そう思うと、同じ気持ちでいる子には積極的に話しかけたいと思えたし、なんとか勇気を振り絞ることができた。  自分で行動してみて、わかったこともある。学級委員の伊吹くんもまた、ひとりぼっちでいる子によく声をかけているのだ。しかも、ちゃんと寂しそうな子だけに声をかけに行っている。  もしかしたら、伊吹くんにも芽が見えているんじゃないかと、ある時、それとなく訊いてみたら「別に、なんとなくだよ」と笑っていた。わたしが頭の芽を見てやっと判断できることが、伊吹くんには勘とか雰囲気だけでわかるらしい。希望していた本人には申し訳ないけど、伊吹くんが植物係じゃなく学級委員になってくれて良かったと思う。  なるべく自分からコミュニケーションを取ったり、そんな少し背伸びをしたようなことを続けていたら、驚くべきことに友達もできた。遠藤さんと梅本さんだ。  あの一件の後、学校へ行くと2人が声をかけてくれるようになって、休み時間にお喋りしたり、移動教室の時は一緒に行動するようになって、ゴールデンウィークには遠藤さんのお家で3人でゲームをして遊んだ。友達のお家にお邪魔するなんて数年ぶりで、約束をカレンダーに書き込んでいたら、ママもびっくりしていた。  お家で遊んだ時の取り決めで、わたしも2人のことをミズキちゃん、ハナちゃんと名前で呼ばせてもらうことになり、2人もわたしを萌子ちゃんと呼んでくれることになった。そんな風に呼ぶのはママと田舎のおばあちゃんくらいだったから、最初は照れくさくてドギマギしてしまったけど、とても嬉しくて、名前を呼ばれると意識しなくても笑顔になった。  そして、連休が明ける頃、わたしは頭の植物のことを〝プラント〟を呼ぶようになった。  わたしにしか見えていないものだから、みんなにも見える実際の植物とは分けて呼びたかったし、英語の授業で習ったPLANTという単語が格好良くて気に入ったので、そう呼ぶことにしたのだ。  いろんな人を観察するうち、特殊なプラントが生えている人がいるのにも気が付いた。  テレビや動画で観る有名人、特にすごく人気のあるアイドルや歌手には、花束みたいに多くのお花が咲いたり森みたいに葉っぱが生い茂っているし、おしどり夫婦なんて呼ばれる2人は色や形が似たプラントが生えている。病気やケガをしている人は色が薄かったり、白っぽくなっていて、逆に黒や灰色に濁った色をしているのは、ニュース番組で観る悪いことをした人たちだ。  たくさんのプラントを見ていると、わたしや周りのみんなの芽は、どんな風に成長していくんだろうと楽しみにもなる。うちのクラスで一番葉っぱが多いのは伊吹くんだけど、たまにしか学校に来ない比奈森(ひなもり)さんのそれには、既に小さな蕾がついていて、ぷっくりと膨らんでいる。わたしのは相変わらず双葉のままだから、すごくうらやましい。
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