血染め地蔵を見つけて

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 小学六年生のひとり旅。路線検索をしたり、移動の暇つぶしに無計画にインターネットを見ていたり。先ほどだって、作業の最中、汚れの落とし方ページを開きっぱなしだった。無事に山を下りきる前に、スマホの電池はなくなってしまった。 「変だなぁ……上ったのと同じくらいの時間、もう歩いてるのに……どうして下に着かないの?」  登山道を外れたつもりはないのに、野々歌は自覚のないまま、道に迷っていた。登山ではたった一本、ほんの数歩の道間違いをするだけで、簡単に遭難してしまうのだ。山中はどんどん薄暗くなってきて心細い気持ちのまま、ひたすらに下を目指して歩き続ける。山で遭難した場合、無策に下り続けるよりは上りに転じて尾根へ出た方が良い。もちろん、野々歌はそんな基礎知識を持ち合わせてはいない。  それでも、野々歌が歩いているのはまだ獣道ではなく、登山道であるはずだった。ぎくり、足を止める。なんとなく、嫌な予感がした。  野々歌の進行方向、十数メートルほど先に中年の男性がいて、こちらを見ている。道に迷っている時に大人に出会えたのだから、頼ってもいいはず。だが、その男のどこか白けたような無感情の目を見ていると、野々歌は喉の奥から苦い胃液がせり上がるような不快感を覚えるのだ。  男は声も出さず、愛想笑いすらせず、淡々と歩いてくる。思わず、野々歌は踵を返し、これまで歩いてきた道を引き返す。小走りになって、すると、男の足さばきが変わったのを足音から察した。はぁはぁ、と、自分の息遣いだけでなく、男のそれまで耳元に届く気がする。  野々歌はズボンのポケットの中に入れてあったお守りを取り出して、中に納まっている小さな血ぞめじぞうごと、ぎゅっと握りしめる。  ……こわい、こわいよ。助けて、お父さん……朔斗!  胸の内でそう叫び、半泣きになって夢中で走っていた野々歌は、 「わっ……わああぁぁああ~っ!」  勢いよく斜面に飛び出してしまい、足を踏み外して、滑落した。  死の瞬間、体感はスローモーションになり、これまでの人生が走馬灯のようによぎる。そんな話を聞いた覚えが、野々歌にもある。実際、今の野々歌もまた、それを嫌というほど味わっていた。
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