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3F 婦人服(ミセス)フロア
「これ、どうかしら?」
「うん、いいんじゃない?」
嬉しそうにワンピースを肩にあてているのは、五十代位のお母さん。微笑んで見ているのは三十代位の息子さん。
店員さんは少し離れたところから、にこやか親子の様子を眺めていました。
お気に入りの1枚があったのか、ワンピースを持ったまま、お母さんは次の服を探します。
「あの、よろしかったら商品、お預かりしておきましょうか?」
店員さんがお母さんに声をかけました。
「ありがとう。お願いするわ」
お母さんは店員さんにワンピースを渡すと尋ねました。
「この形で、もう少し袖丈があるのが欲しいの」
「こちらのワンピースは新作でして、この形で袖丈があるものはないのですが、気になるようでしたら、こちらの形のワンピースはいかがでしょうか」
店員さんはたくさんの服の中から、一枚のワンピースをさっと取り出してお母さんに見せました。
「今出ているお色目は黒系なのですが、この他に茶色とネイビー、グリーン系がありますよ」
お母さんは早速手に取ってみました。
「あら、コレもいいわね。でも、そっちのワンピースのほうが、胸元にリボンがついていて可愛いわ」
店員さんは2枚のワンピースをショーケースの上に置きます。
「それでしたら……」
と、奥の陳列棚から持ってきたのはスカーフでした。
「このようにスカーフを合わせて頂くと華やかになります。結び方やスカーフのお色で、ワンピースの印象もガラリと変わります」
「まぁ。ホントだわ。スカーフ合わせるだけで印象が変わるのね。でも、ワンピースとスカーフ両方だと予算オーバーね……」
少しがっかりしたようなお母さんの様子に、側で聞いていた息子さんがすかさず言いました。
「そのくらいなら大丈夫だよ、母さん。母の日なんだから好きなの選びな、って」
店員さんは、息子さんの言葉を聞いて微笑みました。
「頼もしい息子さんですね」
お母さんは、嬉しそうに頷きます。
「初めてなんですよ、大人になった息子とデートするのも、プレゼントを貰うのも。もう、私、嬉しくって。主人とデートした時より、嬉しいわ」
「こちらの商品ですが、バーゲン対象品ですので、今ついている価格から30%のお値引きとなります」
店員さんの言葉を聞いて、お母さんが喜びました。
「まぁ、じゃあワンピースとスカーフを買ってもそちらのワンピースより、安いわね」
はしゃぐお母さんと、はしゃいでいるお母さんに照れる息子さん。
会計時、息子さんが店員さんに言いました。
「スカーフの提案、ありがとうございます。あんなに喜んでいる母、久しぶりに見ました。こんなに喜ぶなら、もっと早く連れてきてあげればよかったな」
店員さんは微笑みます。
「またのご来店を、お待ちしています」
息子さんは微笑んで店員さんに頷きました。
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