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5F 紳士服フロア
しぶしぶ、と言った体で奥さんと歩いているご主人。どうやらお買い物が嫌いな模様。
奥さん、そんなご主人にブツブツ文句を言っています。
「お父さんがクールビズの服がない、っていうから買いに来たのに」
「だからって俺を連れてくることないだろう。お前が買っておいてくれればいいんだ」
奥さんのお顔がキッとなりました。
「本人が着てみなきゃ、着心地とか分からないでしょう」
「そんなに文句言われるんなら、もういいっ、帰ろう」
怒っているお二人に、店員さんが声をかけます。
「こんにちは。クールビズの服装をお探しですか?」
文句を言っていたお二人は、店員さんを見て、ぎこちなく微笑みました。
「毎年、暑い夏ですものね。スーパークールビズですと、かりゆしやアロハシャツなど、かなり崩した服装の通勤が可能、と言うことになりますが……、そこまで着崩さない、という方も多いです。ご主人さまの会社では、クールビズに対してルールは、ございますか」
「何もないが、アロハやかりゆしは嫌だ。ポロシャツもちょっと……」
「では、こちらの半袖シャツはいかがですか」
店員さんは、陳列してある薄いブルーの半袖シャツを、広げました。
「普通のワイシャツね」
奥さまがジッと見て、言います。
「はい。こちら、高い吸水速乾性の材質で、サラリとした着心地が特徴です。形態安定加工だから、お家での洗濯もできますよ」
「それは、いいわ!」
奥さんが喜びました。
「ネクタイがないと、ダラシなく見えることがあります。このシャツは襟の先がボタンで止まっているので、開襟していても襟が立ち、とても綺麗に見えます」
店員さんの説明に、ご主人か言いました。
「これにする」
そうしてご主人は、奥さんに向かって口早に言いました。
「あっちの休憩スペースにいるから、お前、買っといてくれ。色は任せるから」
そう言うと、サッサと自販機のある休憩スペースに行ってしまいました。
残された奥さんはそんなご主人に、笑っています。
「ありがとう。本当に助かったわ!」
そう言ってお茶目な笑顔を見せた奥さんは、ご主人のために色違いで四枚ほど、シャツを選びました。
喧嘩の種は、店員さんが拾ってくれたようです。
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