SIDE:D

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SIDE:D

もし僕が『君のことが好きだ』と言ったら、君はいったいどんな目で僕を見るんだろう。 廊下ですれ違った際、小さな声で囁かれた。 「おい東村(ひがしむら)、放課後いつもの場所(トコ)に来いよ」  僕は君の顔の顔も見ず、頷きもせず、何も聞こえなかったかのよう無言で通り過ぎる。 後ろから、彼の大きな舌打ちが聴こえた。 来年取り壊し予定だという旧校舎は、当たり前だけど立ち入り禁止だ。だけどたまにこうやって僕らみたいな連中に有効利用されるのだから、遺しておけばいいのに、とも思う。 あと数ヶ月で卒業する僕には、あまり関係ない話だけど。  彼との約束の場所は、その旧校舎の3階、突きあたりの教室。音を立てないように静かにドアを開くと、机に片足を乗せて座っていた彼がゆっくりと僕の方を向いた。 「遅かったな」  彼は立石稜太(たていしりょうた)といい、校内でもチャラくて有名なヤリチンだ。  派手な格好の女子は大抵彼と寝ている、という噂が立っている。 「ちょっと職員室に用があって」 「あっそ。……じゃ、早速ケツ貸せよ」  でも僕は彼のことを、チャラいだとかヤリチンだとか、上から目線で揶揄できるような立場じゃない。 * 「はッ……あ、ンッ! そこ、」 「あぁ? ここかよクソビッチ!」 「はあ、うんッ! そこきもちいからもっと突いて、立石く……」 「リョータって呼べ!」 「リョータく……ッ稜太君ッ! あ、ああ……!」  僕も彼と同じ穴の貉だからだ。  それに、真面目な優等生の皮を被っている分、きっと僕の方がタチが悪い。 「く、ナカに出すからな……っ、全部受け止めろよ、大智(だいち)!」 「やだ、あ、や……ア、アアーッ……!!」 互いに達したあと、彼は全てを絞り出すように数回腰を振って、ゆっくりと僕の中から出ていく。 いつもバックの体勢だから僕からは見えないけれど、彼の性器が引き出された瞬間、僕の中からは白濁がゴポリと溢れ出し、彼の艶々な性器は糸を引いているのだろう。 (僕も一度見てみたい、な……) 「――じゃあな、東村」 あっという間に服装を正した彼が教室を出ていったのを見届けたあと、僕はガリッと親指の爪を噛んだ。  顔が熱い。  胸が苦しい。 (イク時にだけ下の名前を呼ぶなんて、反則だろ……)  僕は彼のことが好きだ。  とても、とても――……。 (立石君、今日もかっこよかったなあ……)  僕は最中にうっかり『好きだ』と言わなかったことに安堵しながら、衣服を整えた。 *  彼とは一年の時から同じクラスだった。  だけどまともに話をしたのは、ほんの数回。  彼は明るくて、いつでもクラスの中心で笑っていて、僕は彼の笑顔を見るたびに自分も胸がほっこりして、この気持ちは純粋な憧れだと思った。  でもある日、彼が放課後の教室で女子とセックスしているのを偶然見てしまった。  乱れた制服。  荒い息遣い。  くぐもった嬌声。  肉のぶつかる音。  一定のリズムで前後に動く腰――。  それを見た瞬間、僕は頭が真っ白になった。  そして、もう憧れなんかとっくに通り越して彼のことが好きなんだと確信した。  後日、彼に正式な彼女はおらず、あの相手は単なるセフレで、しかも複数人いると風の噂で知った時は卒倒しそうになった。  僕は生きるのが辛くなった。  勉強も人間関係も何もかもがどうでもよくなって、自暴自棄になって、気が付いたら…… 『はあはあッ東村君、きみはなんて悪い子なんだ! 真面目な子だと思ってたのに、こんなにいやらしく教師を誘惑するなんて……!』  いつのまにか僕は、自分でもどん引きするレベルのビッチになっていた。  相手は教師だったり先輩だったり、多岐に渡る。  しかし誰が相手でも、僕は彼に抱かれている妄想をするだけだ。  あの日見た光景が、頭から離れないから。  けど、あの日――。 『……淫行現場、発覚』  保健室で教師と致しているところを、彼に見られてしまった。
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