SIDE:R

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SIDE:R

*  その日は朝から頭痛がして、2限目辺りで耐えきれなくなり保健室に薬を貰いに行った。  だけど保健医はいなくて、勝手に薬を貰おうとしたら締め切られたカーテンの向こうからくぐもった声がした。  俺レベルになると何をヤってんのかなんて、見なくても分かる。百パーセント、あの時の声だからだ。  まだ午前中で授業中なのに、人が頭痛で苦しんでるのに、こんな所で盛りやがってどこのどいつだよ。  少し自分のことを棚に上げて、わざとビビらすために思い切りカーテンを引いてやった。 奴らは俺がココに入ってきた物音にすら気づいていなかったようで、急にカーテンが開かれても慌てて取り繕う素振りすら見せなかった。 けど俺も、そんなことはどうでも良くなるくらい、驚いた。 そこにいたのはなんと野郎二人で、一人はキモいと評判の保健医。 そしてもう一人が、 「あ……立石君……?」 クラスでも大人しくて目立たない優等生の、東村大智(ひがしむらだいち)だったからだ。 「……淫行現場、発覚?」 情けないことに、俺はそんな言葉しか出てこなかった。 あまりにも衝撃で、ショックすぎて。 頭痛なんか、一瞬でどこかに消えてしまった。 (嘘だろ、東村……)  俺は、密かに東村のことが好きだったのだ。 *  高1の頃からずっと同じクラスだけど、話したことはほとんど無い。けど、何となく最初の頃から気になっていた。  俺がクラスの中心で騒いでいるときも迷惑な顔一つせず、子どもでも眺めているかのように静かに微笑んでいた東村。  物静かな優等生で、俺とは何もかも真逆。  仲良くなりたいと思っていたけど、俺はなかなかあいつに話しかけることができなかった。  どうでもいい奴には簡単にできることが、東村にはできない。  俺はだんだんフラストレーションが溜まり、女で憂さ晴らしするようになっていた。  俺はあいつのことが好きだけど、あいつが俺の事を好きになるはずがないんだ。だって俺達は男同士だから。  そう思って、東村のことを吹っ切るために馬鹿みたいに女を抱いていたのに……なんだよこれ。 『このコトはバラさねぇからその代わり、これからは俺のオモチャになれよ』  そんなつまらない脅しで、俺は東村と寝ることに成功した。  こんな最悪の形で手に入れたかったわけじゃない。  だけどもう、元には戻れないんだ。 * 「なんで立石君は僕にこんなことをするの? 君、セフレはいっぱいいるだろ。わざわざ面倒くさい男なんか抱かなくても……」  東村から投げかけられた、当然すぎる疑問。 「言っただろ、お前は俺のオモチャなんだよ。単なる暇潰しだ、女には飽きてきてたからな」 「ふーん……」 「お前も抱いてもらえるなら、相手は誰だっていいんだろ? くそビッチが」 「……まあね」  本当はこんなことを言いたいんじゃないのに。  俺は誰よりもこいつに優しくしたいのに。  でも俺は、東村にとってただの棒でしかない。つまりセフレ。俺が今まで女にしてきた扱いと全く同じだ。  別に保健医との関係を脅したりしなくても、東村は俺に足を開いただろう。   先生は恋人なんかじゃないよ、と言われて嬉しかったけど嬉しくない。  だって俺は東村からすれば、変態教師と取って変わっただけだから。 「……放課後、いつものトコ来いよ」  大事な秘密を話すみたいに、こっそりとすれ違いざまに声を掛けても、東村は面倒臭そうな顔をして俺を無視する。  悔しくてつい毎回舌打ちしてしまうけど、それすらも東村にはどうでもいいんだろう。  どうにか東村の気を引きたくて、俺は酷いことばかり言ってしまう。 『おら、もっと鳴けよっ! ココがいいんだろ? クソビッチ!!』 『あんっ、稜太君、稜太ぁっ!……』  もし俺がお前のことを好きだと言ったら、お前はいったいどんな顔をするんだろう。 スチューデント・ダンス【終】
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