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今年も残夏を惜しむ様に蝉がその命を削り鳴いている。この季節になると何時も僕は君を思い出してしまう。そう、大人でもなければ子供でも無かったあの季節の頃を……。
今から6年前、僕は高校を卒業し専門学校に進学し始めての夏休みを迎えていた。そこで出来た友人の健斗が海の家でアルバイトするというので、僕も同じくそこでアルバイトをすることにしていた。というのもアルバイトはしたかったが知り合いがいない所に行くのは不安だったので渡りに船だったのだ。かくして僕の初めてのバイト生活が始まったのだった。
アルバイト初日。僕は緊張からか眠れずやや寝不足になりながらもバイクを走らせ海へ向かっていた。風が心地よく眠気もすっきり冷めた僕はアクセルをひねりバイクを加速させる。と同時に心地よさに包まれていた。僕は風と語らい海の家ドルフィンを目指す。程無くして辿り着くと僕は駐輪場にバイクを止め海の家へと急いでいた。
「おはようございます」
中に入ると既に健斗も来ていて作業の準備をしていた。他には髪の長い如何にも美人といった女性と、オーナーがいて僕はオーナーの下に行くと何をしたら良いかを尋ねていた。
「遅くなり済みません。僕は何をしたらいいでしょうか」
「そうだな。健斗君と一緒に焼きそばと焼きイカお願いできるかな」
「解りました。健斗に手伝えばいいんですね」
「うん。そうしてくれると助かる」
そんなやり取りをした後、僕は健斗の下に訪れ声を掛ける。
「おはよう」
「おせーよ。明日からはもう少し早く来いよ」
健斗はにやけながらそう言葉を返すとTシャツの袖を引っ張り小声で話を続ける。
「それより、あの娘綺麗だな。お前の好みのタイプだろ」
「馬鹿、何いってんだよ。それより仕事しようぜ」
とは言ったものの、健斗の言う通りタイプもタイプ。完全なドストライクで気になっていたのだが、考えないようにしていた。あの娘は何処の誰なんだろう。そんな事を考えながら視線を置くと、彼女はそれに気付いたのか。こちらに振り向き頭を軽く下げ微笑むと正面を見て仕事を続けていた。
「顔あけーぞ。トマトだ。トマト」
健斗の冷やかし僕は、「うるさいよ。それよりマジで仕事しようぜ」と、いうと健斗も冷やかし飽きたのか。
「そうだな。仕事しよう」といい真面目に仕事とりかかっていた。僕もそれに続く。
真夏の焼き物は思いの外暑くて大変だったが、その分夏をより強く感じていたと思う。時折過ぎ去る風が心地いい。それはバイクを走らせている時のそれに似ていた。僕は正に夏を謳歌していた。そんなこんなで一日目のバイトとはあっという間に終わり後始末を済ませると僕はバイクを走らせていた。
――明日はあの娘と話せると良いな。なんてことを考えながらバイクを走らせて近くのコンビニに寄った時の事だった。
「あれっ、君はバイトの」と、あの娘に話しかけられる。
「あっ、はい。川崎。川崎達也です」と、答えたのだが、その様があの娘には面白かったのか笑われてしまいとても恥ずかしかったと記憶している。
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