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その僕に「川崎達也君ね。私は仁藤美玖です」というと彼女は微笑んでいた。思わず見惚れるがすぐさま言葉を返していた。
「美玖さんですか。明日からよろしくお願いします」
「年も近いみたいだし美玖でいいよ。うん。そうだ。美玖って呼んで」
「はあ、解りました。機会があれば美玖と呼ばせてもらいます」とは、言ったもののどう見ても大人の女性で、絶対年上なのは確かだったんで、呼び捨てには少なからず抵抗があったが、気に入られたいがため、それに従おうと思っていた。そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、彼女は満足気な表情を見せ会話を続ける。
「よし、――んであのニハンのZZ(ダブルズィー)は達也君のだよね。後ろ乗せてくれない」
「まあ、乗せていいですけど美玖さんがかぶれるヘルメット無いんですよね」
「まだ、さん付けじゃん。まっ、良いか。それなら大丈夫。家近くだからヘルメット持ってくるね。私もバイク乗っているんだ」
「そうなんですか」
「直ぐ戻ってくるからバイクで待っててね」
「はあ、解りました」
僕は完全に彼女のペースに乗せられていた。だが、思ってもいない展開に心が躍っていた。暫くすると彼女が戻って来て声を掛ける。
「お待たせー。じゃ、適当に流してくれない」
そう言うと、彼女はバイクに跨り僕にしがみついた。同時に柑橘系のかぐわしい香りが漂い背中には彼女の温もりが伝わる。
「しっかりつかまってて下さいね」
「ゴーゴー」
背中ではしゃぐ彼女を愛らしく思いながら、僕はアクセルをひねりバイクを加速させ海沿いの国道を走らせる。まだ熱を帯びた風が涼しくかわる。見上げれば満天の星が煌めく。
「気持ちいいね」
「やっぱり、バイクは最高ですよ」
彼女の言葉にそう言葉を返すと僕は更にバイクを加速させてテールランプを躍らせていた。かれこれ30分ほどバイクを走らせてもといたコンビニに戻ると彼女をバイクから下ろす。
「今日は楽しかったね。また、今度後ろ乗せてね」
そう言うと彼女は僕の下から去って家に帰って行った。僕はそれを見送った後バイクを走らせ帰路についたが、今年の夏は最高の夏になりそうな予感を感じて心を躍らせていた。
翌日。僕は朝早く起きてバイトに行く準備をして海の家にバイクで向かう。少し肌寒い風を感じながらバイクを走らせ駐輪場にバイクを停めると海の家へと急いだ。
「おはようございます」
「達也君かい。今日は早いね」
僕が海の家に入るとそこに健斗や美玖の姿は無くオーナーだけがいて言葉を返す。
「昨日はやや遅刻気味だったんで早く来たんだけど早すぎましたね」
「ひと息ついてからでいいから昨日と同じく焼きそばと焼きイカの準備して貰えるかな」
僕がそう言葉を返すとオーナーはそう言い、僕が「はい」と返事するとオーナーは事務室に消えていった。
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