シンの気苦労 ~シン視点~

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 ほったて小屋の扉がバンッと開き、体が大きく目つきの鋭い男が出てきて、俺とベルガの動きが止まる。  やべぇ…………家主が出てきた……やっぱり魔王城なわけないよな。この小屋……  さっさと退散するのが吉と判断し、ペコリと頭を下げた。 「失礼しま」 「すみません。魔王ですかぁ?」 「ばっ……」  あっけらかんと男に聞いたベルガの口を、俺は慌てて手で押さえる。  バカやろう! この(いか)ついおっさん怒らせたら厄介だろ! ビビリのくせに大胆なんだよ、お前は!  男は俺達をしげしげと見た後、誇らしそうに胸を張った。 「いかにも。()が魔王だ」 「…………は?」  ベルガの口から手を離し、俺はその男の顔をじっと見る。ベルガはニコニコと男に笑いかけた。 「へぇ、魔王ってもっと恐ろしい姿かと思ったけど、普通の人間じゃん!」  ベルガの人懐っこさは天下一品である。男は頭をポリポリ掻き、照れくさそうに話す。 「いやぁ、人間の形に変化(へんげ)しているだけだが…………お前の青髪、懐かしいな。あいつの息子か?」 「あいつって青髪の勇者か?」 「青髪の……えっ? あいつ、勇者って言われてんのか?」 「うん。因みに俺は息子じゃないからな」  昔からの親友のように会話を弾ませる2人を俺は呆然と見つめていた。  ベルガ(あいつ)のコミュニケーション力、凄くね? 勇者の必須能力なのか? 「ふぅん……あいつが勇者ねぇ」  魔王と名乗る男は面白そうに顔をニヤつかせた。 「ま、お前達もせっかく来たんだ、入れよ。茶くらい淹れるぞ?」 「魔王が…………茶?」  俺の頭はこの突飛な状況に考えがまとまらず、つい思った事をそのまま言葉にしてしまう。男はニッと笑った。 「粗茶だけどな!」  魔王が粗茶って…………マジか。
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