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少し歩いては休んで、休んで、また歩いて。
一希が丘のふもとまでたどり着いたとき、辺りは既に暗くなりつつあった。
チカチカと街灯に明かりが灯る。
白くぼやけた明かりの向こう。
この時代、こんな辺鄙な場所に誰が買いに来るのかもわからない、古びた木造の駄菓子屋があった。
この駄菓子屋、まだあったのか。
利益とか出てるんだろうか、と余計なお世話を焼いてみる。
一希はおそるおそる店内を覗いた。
中には店主と思しき高齢の女性が座敷の上で新聞を広げているところだった。
彼女は丸い眼鏡の向こうから一希の顔をチラリと見たきり、再び新聞に視線を戻した。
座敷の手前の棚には色とりどりの駄菓子が並んでいる。
けれど一希の視線を釘付けにしたのは、古いガラス張りのショーケースに並んで、ひんやり冷やされている青いラムネの瓶だった。
一希はおずおずと店主の正面に歩を進めた。
もうずいぶん長く人と会話をしていない。
コンビニでは問題なく買い物ができたが、はたしてこの無口な店主にどうやって声を掛けるべきか。
「あ、えっと」
店主はチラリと一希を見る。
「あ、ラ、ラム──」
「ラムネを二本」
ドッ、と滞っていた身体じゅうの血液が巡り始めたような感覚だった。
ひび割れた木製の机の上に、一希の横からカラリと投げ出された二百円。
一希の会計に割って入ってきた男の顔を見上げる。
「──まいど」
店主は金を受け取ると、また手元の新聞に視線を落とした。
男はショーケースの扉を開けてラムネ瓶を二本取り出し、そのうち一本を一希に手渡す。
「ほら飲もうぜ一希」
「……兄ちゃん。なんで」
「千夜から手紙が来た」
そう言って兄は、鞄の中から可愛らしい便箋を取り出した。
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