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24.浄化
諸々の後始末を終え、丸川の裏付け捜査は監察の指示の下、安居係長の部下と本店の組対が協力体制で臨むこととなった。
逸彦は法令指導第二係に復命し、週明けから再び、規則正しい生活に戻ることとなった。
本店に報告だけ済ませて数日ぶりに帰宅した日、まだ昼間であったが、多岐絵は自宅にいた。スキニーのジーンズに、大きなVネックのザックリとしたセーターを着て、リビングの床を掃除していたのだ。
「あら、逸ちゃん? 」
「ただい……」
四つん這いになって床を雑巾掛けしていた多岐絵のヒップが逸彦の方を向いていた。痩せたのか、少し緩めのジーンズがズリ下がり、突き出されているヒップのウエスト辺りにピンクのレースのパンティが顔を出していた。しかも大きめのセーターも胸の方にズリ下がっている。出かけない日はノーブラで肩を休めるというセオリー通り、はだけた肩越しに顔だけをこちらに向けている多岐絵のたわわな乳房が、セーターの襟や裾の隙間からチラチラと見えた。
「じょ、浄化願いまーすっっ!! 」
鼻血を出す間も無く、逸彦は多岐絵に挑み掛かったのであった。
「すいません……我慢できませんでした」
裸体にバスタオルを巻いただけの姿で、多岐絵は笑いながら逸彦に缶ビールを手渡した。逸彦はベッドの上で正座した姿で、それを受け取った。
「事件、しんどそうだったわね。お疲れ様」
「……怒ってない? 」
「全然。私も久しぶりに燃えちゃったし……ま、コンサートの本番前日だったら殺してるけどね」
「はい……すいません」
と頭を下げながらも、嫁さんのパンツでしかムラムラしないのは間違いない、結花に言った事は嘘ではなかったと、心の中でドヤ顔をしたい程の逸彦であった。
「やだほら、鼻血」
「あれ」
多岐絵はビールをベッドサイドに置き、逸彦の鼻血をティッシュで優しく拭うと、そのまま逸彦の頭を抱きしめた。バスタオルがはだけ、彼女の形の良い乳房に鼻が埋まる。しっとりとした肌からは、いつものボディ・ソープの香りが漂い、ここが自宅で、妻が多岐絵なのだということを知らしめている。
「俺さ……多岐絵の事、本当に大好きなんだ」
「知ってる」
「なんかさ……カッコ悪いな、俺」
「そんなことない。私をこうして守って愛して……必ず帰ってきてくれる。私にとっては抱かれたい男第一位の、自慢の旦那様よ」
「俺……ん? 」
乳房が血腥い、と慌てて顔を起こすと、谷間が逸彦の鼻血で鮮血に染まっていた。慌ててティッシュに手を伸ばす逸彦の手を、多岐絵が優しく包んだ。
「カッコ悪い逸ちゃん、可愛い。私だけが知ってる逸ちゃんの素顔」
「多岐絵……」
「よしよし、いい子いい子。よく頑張ったね」
自分は妻を泣かせるだなんて考えられない、こんなに強くて優しくてちょっとエロくて美しい妻を目の前にして、抱かずにいられる連中の神経がわからない!
やはり多岐絵が世界で一番愛おしい……逸彦は再び、多岐絵を静かに横たえた。両手を逸彦の首に回し、多岐絵は笑って逸彦を迎えた。
俺の女神……泣きながら、逸彦は多岐絵に口付けた。
たっぷり浄化された頃には、窓の外はすっかり日が暮れていた。
「今日はどっかに食べに行こうよ」
「そうね。たまには良いわね」
裸のまま二人して大きな毛布にくるまり、窓の外を眺めた。
巨大な歓楽街、新宿のネオンが眩しい。人間の欲望が放つ臭気に満ちて、剥き出しのギラギラした光を放つ街。
多岐絵がいなければ、逸彦もあの瘴気に蝕まれていたかもしれない。
自分とは決して相容れない街……いつもあの光の底で戦っているド腐れ縁の親友に、逸彦はエールを送った。
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