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新居
駅から徒歩八分。築年数はそれなりだが、リノベーションされた部屋は新築さながらにキレイで、南向きの窓からは明るすぎるくらいに光が入る。一人暮らしには十分すぎる広さの1LDK。周が来ても躊躇うことなく泊めてあげられる。検索の際に挙げた条件はほぼ満たしていて、迷う理由はなかった。
不動産屋で鍵を受け取り、家とは反対、駅へと歩く。平日昼間とはいえ、商店街はひとが多い。ビジネス街とは違う緩やかな騒がしさは心地いいが。
カンカンカンと警報器が鳴り、踏切が閉まる。目の前を小豆色の電車が過ぎていく。初めて住む沿線ではあったが、すでに見慣れた色だった。周の部屋はふたつ隣の駅にある。付き合って半年、会社帰りに乗り換えるのも、休日に揺られるのも慣れたものだ。
「誠一さん」
改札から出てきた周が手を上げ、俺の名前を呼ぶ。まだ呼び慣れたとは言えない、少しはにかんだ表情で。周の仕事場である美容室で会うときは今でも「小林さん」だからだろうか、何度呼ばれても胸がくすぐったくなった。
「はい、鍵」
「えっ、いいの?」
まだ使っていない鍵を渡せば、周の声が驚きに跳ねる。
確かに合鍵を渡すのはこれが初めてだけど。二本受け取ったときに、自然と周に渡そうと思っていた。
「ダメなの?」
「ダメじゃないけど……誠一さんのいない間にイタズラしちゃうかもよ。新しい部屋見るの楽しみだったし」
「あー、それなんだけど」
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