新居

1/2
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ

新居

 駅から徒歩八分。築年数はそれなりだが、リノベーションされた部屋は新築さながらにキレイで、南向きの窓からは明るすぎるくらいに光が入る。一人暮らしには十分すぎる広さの1LDK。(あまね)が来ても躊躇うことなく泊めてあげられる。検索の際に挙げた条件はほぼ満たしていて、迷う理由はなかった。  不動産屋で鍵を受け取り、家とは反対、駅へと歩く。平日昼間とはいえ、商店街はひとが多い。ビジネス街とは違う緩やかな騒がしさは心地いいが。  カンカンカンと警報器が鳴り、踏切が閉まる。目の前を小豆色の電車が過ぎていく。初めて住む沿線ではあったが、すでに見慣れた色だった。周の部屋はふたつ隣の駅にある。付き合って半年、会社帰りに乗り換えるのも、休日に揺られるのも慣れたものだ。 「誠一(せいいち)さん」  改札から出てきた周が手を上げ、俺の名前を呼ぶ。まだ呼び慣れたとは言えない、少しはにかんだ表情で。周の仕事場である美容室で会うときは今でも「小林さん」だからだろうか、何度呼ばれても胸がくすぐったくなった。 「はい、鍵」 「えっ、いいの?」  まだ使っていない鍵を渡せば、周の声が驚きに跳ねる。  確かに合鍵を渡すのはこれが初めてだけど。二本受け取ったときに、自然と周に渡そうと思っていた。 「ダメなの?」 「ダメじゃないけど……誠一さんのいない間にイタズラしちゃうかもよ。新しい部屋見るの楽しみだったし」 「あー、それなんだけど」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!