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修吾との最後の記憶を思い出しながら、視線を戻す。封筒の中で時を止めていたかのように便箋は白い。何本も引かれた罫線を無視し、真ん中に文字が並ぶ。
――誠一、おわりにしよう。
「ごめん」も「ありがとう」も「好き」もない。期待した言葉はなにひとつない、別れの手紙。出そうとして出せなかった修吾の気持ちが痛いほど伝わってくる。
「なんだよ……それ」
呟きの最後、ピンポーン、と弾んだインターフォンの音が重なる。
「周?」
こんな時間に尋ねてくる相手など、周しか浮かばない。
画面の右上には『玄関』の文字。周なら合鍵でエントランスを抜けるので、いつものことだ。
「ん?」
映っているのはドアを開いて見える景色だけで、ひとの姿はない。映り込まずに鳴らすことは可能だけど。なんだ? 俺のこと驚かそうとしているのか?
「――はい」
通話を押すが、返答はない。
「周?」
呼びかけても答える声はない。
周ではないのだろうか? 部屋を間違えているとか? いずれにしても出ないことには鳴り続けるだろう。
「一体、何時だと思っ」
玄関へと向かいかけた足が止まる。
視線を向けた先は、ドアの色がはっきりとわかるくらいに明るい。
「あれ?」
ライトは点いたままだった。いつものように午後十一時に点いてから一度も消えていない。誰もいないはずの玄関を照らし続けている。
――ピンポーン。
音は鳴り止まない。
――誠一、おわりにしよう。
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