恋のはじまり

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翌日、朝食を摂っていた時のことだ。 「昨日俺が寝ようと思ってたらさー、ねーちゃんが変な声でうなっててー、すっごい迷惑だったー」 翔真がお母さんにバラしてしまった。 「優花、なんか困ってることでもあるの?」 お母さんは私のことを心配してくれている。 「あ、あのね。なんでもないの。翔真、うるさくしてごめんね」 誤魔化しにも何にもならないことはわかっているが、今ここで本当のことを言うわけにもいかない。夜、唸らないように気を付けよう。 仕方ないので、翔真の前ではなるべくいつも通りを意識して行動することにした。 今日の昼食はピザに決まったから、市販のピザ生地やチーズを買いに行く。 スーパーへ向かう途中、やっぱり考えることは毎日同じ。今日も、太田くんとバッタリ会うことはなかった。 昼食を済ませると片付けをする。 翔真も友達と約束をしていたので出かけて行った。忘れ物とかして戻ってこないのを確かめてから、この前買ったばかりの服に着替える。私の初サロペットパンツを2人に見せたい。 時間を確認して、自転車に跨がる。紗英ちゃんの家は学校を挟んだ向こう側だ。 ペダルをぐんぐん漕ぐ。 相変わらず、真っ昼間の道に通行人は少ない。けれど、空気は少しカラッとしてきた気がする。 前方にも自転車がいる、と思った瞬間その人は自転車から降りて左右を確認するとこちらへ歩いてきた。 「岩瀬?」 自転車をとめる。 嘘……夏休み中、何度も期待したのに一度も現れなかったじゃん。なんで今? 「お、太田くん?」 初めて見る私服姿は、普通のTシャツとジーンズのはずなのになんだか眩しい。なんで必要以上に爽やかなんだろう。もしかして、またかっこよくなった? 「俺、今から坂本んちに行くんだ」 「私は、紗英ちゃんち」 「あー、今度の話聞いた?」 「何? 知らない」 「そんなら、工藤から聞いて」 工藤というのは、紗英ちゃんのこと。 「え、紗英ちゃんに聞くの? 何を?」 「多分、会ったら言われるから。じゃあ!」 太田くんは再び左右を確認すると、自転車に乗って行ってしまった。 あー、緊張した。 ふと、見上げると空の青が高くなっている。雲ももう夏のものではない。あれは……うろこ雲だったかな? それともひつじ雲? 気持ちのいい夏の終わりの空は、今の私の心みたい。
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