恋のはじまり

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私は、スマホの画面をしばらく見つめていた。 皆、こんなに誰かのことで頭がいっぱいになったことがあるんだ。 全然そんなふうに見えなかった。 実は、ちょっとそうかもって思っていたことがある。でも、まさか自分にそんなことが起こるわけない、と否定していた。 だって、恋がこんなに気が狂いそうになるなんて知らなかった。 会いたいと思ったら涙が出たり、顔を思い浮かべたらニヤついてきたり、今までの私はこんなに情緒不安定ではなかったはず。 これが恋なのか。 確かにこれは落とし穴だ。突然、ある1人の事しか考えられなくなるなんて、罠にはまってしまったみたい。 苦しくて切ないってこういうことなんだ。 ぐるぐる頭で考えるだけで、実際には何も動けない。 でも同時になんだか嬉しくなった。 私、恋してるんだ。太田くんのこと好きなんだ。ちょっとくすぐったい気持ち。 新事実に気づいてしまった私は、完全に目が冴えてしまった。キッチンに行くと、冷蔵庫から麦茶のポットを取り出してコップになみなみと注ぐ。 当たり前だけど冷たい。それを一気に飲み干すと、胃だけでなく心や頭もスーッと落ち着くような気がした。 眠れないのに、何をする気にもなれない。 幸い、私の部屋はベランダに面しているので、なるべく物音を立てないように、そーっと外へ出る。 一気飲みした麦茶で体が冷えていたのか、夜のぬるい風を不快に感じることはなかった。 昼間と違って、静寂に包まれている。 家や外灯の灯りが眩しくて、夜空には1等星が少しわかるくらい。詳しくないから、夏の星座は全くわからない。でも、よく晴れた薄暗い空を眺めていたら少しずつ気持ちが落ち着いてきた。 そして、また気づいた。 私、去年から恋をしてたんじゃないかな? 太田くんの周りだけ色が付いてたの、もしかしたらあれのことを「景色が違ってみえる」って表現する人がいるかもしれない。 そうか、あの時始まってたんだ。 全然気づかなかった。 もともと鈍いという自覚はあったのだが、自分の鈍感さがここまでだとは思っていなかった。 更に驚愕の事実が発覚したところで、そろそろベッドに戻ることにした。
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