第1章 姉の婚約者

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「あれ、もう帰ってきたんだ」 家に帰ると、その男はまだ家に居座っていた。 まさかわたしが彼の家にいた3時間もの間、この男はこの家にいたのだろうか。 唯一、家にいた祖父を見ると、のんきにその男にお茶のお代わりを注いでいる。 わたしの祖父と松葉さんの祖父が友人同士だったらしく、お互いの孫を婚約者にしてしまうほど仲がいい。 それに、祖父がその友人の孫とこんなに交流を深めているとは、寡黙な祖父からはあまり想像ができないことだった。 「じゃあ、ワシは部屋に戻る。絢斗(あやと)くんはゆっくりしていきなさい」 そそくさと、立ち上がる祖父の背中に思わず「何がゆっくりしていきなさいよ!」とツッコミたくなる。 そんな祖父に軽く頭を下げたその男は、含みのある笑みを浮かべて振り返った。 「ケンカでもしたの?彼と」 「え?」 「だから、彼氏のところに行ってきたんでしょ?」 この男はすべてを見透かすような瞳をしている。 そんな瞳で見られたら、体が動かなくなってしまうのに。
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