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「そんなに悩むならさ、こういうのはどう?」
「何?」
「俺の彼女になって」
「彼女?」
私は頭を傾げる。
「あぁ、妻じゃなくて彼女。それで手を打とう」
たっくんはふうっと息を吐き、少し残念そうな顔をした。
「たっくんって、本当に私のこと好きなの? 妹とかじゃなくて? 恋愛感情?」
「そうだよ。ゆりちゃんがずっと好きだった」
それが本当だとすると、私はずっと一緒にいたのに、たっくんの気持ちに今までまったく気づかなかったということになる。
ただそれは、私が恋をしたことがないというのも影響していると思う。ずっと恋する気持ちがよくわからなかったのだ。
もしかしたら恋ができない人間なのかと思っていたときにアズの存在を知って、すっかりハマってしまったのだ。だから、私が初めて熱狂した人がアズということになる。
私はおそらくそこで擬似恋愛みたいな感覚を味わっていたのだと思う。まぁ、私の日常生活では決して関わるはずのない人気俳優だし、本当に「擬似」でしかないことはわかっているけど。
きっと恋はできる。まだ出会ってないだけなのだ、そう思っていた、というか思っている。
そもそも、そこらへんのクラスメイトよりたっくんの方が優しいしかっこいいと思う。だから、恋に適した環境ではなかったのだ。
たっくんとは子どもの頃から一緒にいて、時には喧嘩もすることはあったけど、彼のことを嫌いになったことはない。情熱的な恋をしているわけではないけど、一緒にいるのが自然で心地良い。
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