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私が、キスするの?
たっくんの唇を見つめる。
想像すると恥ずかしくなり、思わず目を逸らした。
すると、たっくんの残念そうな声が頭上から聞こえた。
「やっぱり本気じゃないんだ」
「本気だよ!」
「じゃあ、早く」
たっくんは目を閉じて待っている。
どうしよう。恥ずかしくて自分からなんて無理だ。でもやらなきゃ信じてもらえない。
「あの、恥ずかしいから……、たっくんからして」
そう言うと、たっくんは目を開け、にやりと笑ったかと思うと、私の視界が暗くなった。
口に柔らかいものが触れている。
緊張で身体が強張る。心臓はバクバクと音を立てている。
身体は固まっているのに妙に感覚が鋭く、そっと触れただけの唇の感触がとてもリアルに感じられる。
何これ、嘘みたい。まるでドラマや漫画の世界みたいだ。
少しして唇が離れた。
どんな反応をしたらいいのかと固まっていると、目の前でたっくんが笑った。
いつもの笑顔にほんの少しだけ安心する。
私のこと、驚かせたかったのかな?
「あの、こういうこともするの?」
「するよ? 嫌?」
少し考える。ここは本当の気持ちを言わないと。
「……嫌ではない、と思う」
少し驚いたけど。嫌ではなかった。
「よかった」
たっくんが笑うので、私も笑った。
するともう一度唇がふわりと触れた。
「彼女は幼馴染とは違うから、覚悟して」
こうして私は幼馴染と恋人になった。
本当に幼馴染とは違って、たっくんにものすごく溺愛されることになるのだけど、この時の私はそんなこと予想もしていなかった。
そして、実はアズはたっくんのいとこで、式には親戚として普通に参列してくれることになる。私がそれを知るのはまだだいぶ先の話。
第1話 終
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