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11 衝撃の違い
「あれって、もしかしてカースで光ってたやつ?」
「ああ」
ベルにそう言われ、トーヤが懐からもう一度布に包んであった白い丸い石を取り出した。
白い石は今は光っていなくて、見るところそのあたりに落ちている石だと言われても不思議ではない、なんの変哲もない石にしかみえなかった。
「なんなんだよ、これ」
「これは御祭神の分身だよ」
「へ?」
「神殿の石を《まつ》ってる部屋、あるだろうが。あの石の分身だ」
トーヤは最初にあの部屋であったことを、さっと取りまとめてだが初めて話した。
「そんでトーヤはなんか知ってる顔してたんだな」
「そういうことだ。なんか、色々あってなかなか話せなくてな」
今いるこの部屋はアランたちが滞在している部屋の主寝室だ。シャンタルが体調を崩し、まだベッドの上にいるのでトーヤ、アラン、ベル、そして担当侍女のミーヤとアーダが一緒だ。
「他のやつらにはまた追々話してくが、そういうことがあって、この石を預かった」
「それでその石があの場所に連れてってくれたってことか」
「多分」
多分としか言えない。この石が光って、青い小鳥たちが光って、そしてあの場所に集まるが、連れていく役目があるとまでは断言はできない。
「まあ、これと青い鳥が光るのが合図ではあるな」
アランがまとめる。
「これがどういう役割を持ってるか分からんから、今まで出せなかった。言っていいのかどうかも分からんかったしな。けど、ベルがお守り、青い鳥って言うんで、もしかしてと思った」
「それがシャンタルの破れた穴を埋めたってことか」
「それから、生命力の補充もね」
と、トーヤとアランの会話に本人が一言添えた。
「本当に一瞬だったよ。それまでどんどん流れ出してただけの生命力が、ピタリと流れ出なくなって、減った分だけ足されたのが分かった」
なんとも不思議な話だが、実際に目の前でシャンタルは元気になった、信じるしかあるまい。
「これも、普通のことじゃねえけどな」
「そうですね」
こうして次から次へと不思議なこと、普通なことが起きるから、普通のことがなんだか分からなくなるんだよとトーヤは心の中でつぶやいた。
「それで、一体何が起こった。きちんと話して見ろ」
「分かった」
もうすっかり元気になったシャンタルは、いつもよりちょっとだけ能天気ではないように見えた。
「なんか、しっかりしたな、おまえ」
「そう?」
トーヤがそう言うといつものように笑ったが、
「私は他の人たちより生まれるのが遅かったようなものだからね、育ち盛りもいきなり来るのかも知れない」
「そんで、あんだけ食ったんだな」
「ああ、なるほど」
いつもの調子でベルとそうやって笑う。本当に、もうすっかり元通りだ。
「そんで、何があった」
「うん」
アランに促され、シャンタルが語る。
「ミーヤに絡んできた男たちの声が聞こえたんで、念のためにって、いつもの魔法をかけようとしたんだよ」
「悪いことする人は痛くなる魔法な」
「うん」
「あの、それは一体……」
アーダにだけは意味がよく分からない。
「うん、後でまたゆっくり説明するから、今はちょっとだけ聞き流してくれると助かるな」
「あ、おれが説明するよ」
「分かりました」
ということで、アーダへの説明は後回しとする。
「あの魔法はかける時には特に何もないんだ。ただ、誰かに発動したら、その時にすごく疲れる。だけど、今回は違った。かけた途端にどんと何か衝撃がきたんだ」
「衝撃?」
「うん、さっき樽の穴って言ったでしょ、樽と樽がぶつかって、片一方が弱かったらそっちに穴が開くってこと、あるんじゃないかな。そういう感じ」
「ってことは、それはおまえよりあっちの方が強かったってことか?」
「そうなんじゃないかと思う」
シャンタルが目をつぶってうん、と頷く。
「トーヤはどうだった? 共鳴を起こした時、そんな感じがあった?」
「俺の時か」
トーヤがあらためて思い出す。
「いや、そんな感じじゃなかったな。最初の時は何しろお前がこっち見てる目に金縛りにされちまったような感じだ。おまえはその時、なんか感じたか?」
「ううん、今にして思えばだけど何もなかった。トーヤのこと、なんだろうって思って見ただけ」
「ってことは、俺の時とは違うってことになるな」
「そうかも」
トーヤがふうむ、と考え、
「そんじゃ2回目と3回目はどうだった?」
と、隊長の一言が入る。
「2回目の時は何しろ寝てたからな。ただ、溺れてる感覚があって、苦しい、助けてくれってそればっかりだった。だからやっぱりそんな感覚はなかった。3回目もやっぱり寝てたんだが、頭の中が覚めていくのに体は動かない。そしたら頭の中に誰かが入ってきたのを感じてな、あったまにきてふっとばしてやった」
「そうだったよ、俺の体を勝手に使うなって追い出されたんだ、びっくりしたなあ」
シャンタルは、後ろからわっと驚かされた、ぐらいの言い方でそう言った。
「だから、おまえの時みたいにぶつかった、ってな感覚はなかった」
「そうみたいだね」
「何が違うんだろうな」
「何が違うんだろうね」
共鳴の経験者2人がそう言うのだから、他の者にはもっと分からなくて当然だ。
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